詩歌

ロバート・ブラウニング『春の朝』~海潮音より~

春の朝 時は春、 日は朝(あした) 朝 (あした)は七時、 片岡(かたおか)に露みちて、 揚雲雀(あげひばり)なのりいで、 蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、 神そらに知ろしめす。 すべて世は事も無し。 上田敏の訳は神業です。 これを知ったのは萩尾望都「小…

堀内茂男 ミスター・ロンリー (ジェットストリーム)

遠い地平線が消えて 深々とした夜の闇に心を休める時 遥か雲海の上を、音もなく流れ去る気流は たゆみない宇宙の営みを告げています。 満天の星をいただく、果てしない光の海を ゆたかに流れ行く風に心を開けば きらめく星座の物語も聞こえてくる 夜の静寂の…

秋の歌

短歌といえば五七五七七。 一番有名でなじみ深いものに百人一首がありますね。 秋にちなんで、「秋の歌」でも並べてみるのも一興です。 では百人一首より 奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき 猿丸大夫 吹くからに 秋の草木の しをるれば …

萩原朔太郎 『青猫』

青猫 この美しい都會を愛するのはよいことだ この美しい都會の建築を愛するのはよいことだ すべてのやさしい女性をもとめるために すべての高貴な生活をもとめるために この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ 街路にそうて立つ櫻の竝木 そこにも無數…

ヨイトマケの唄 三輪明宏

Akihiro Miwa - Yoitomake no Uta 小さなころ、よく流れていたこの歌。 土方という差別用語が使われていたため、放送禁止になって何十年。 桑田圭祐の番組が皮切りになって、たけしの番組でも取り上げられるようになってきた。 21世紀に残したい音楽。 こ…

ポール・エリュアール 『リベルテ』

木苺さんのブログで紹介されていた、エリュアールの詩。 youtubeで↑ジェラール・フィリップ様が朗読している動画も合わせてお楽しみください。 木苺さんの記事 ジェラール様の呟くような「J'ecri ton nom」も素敵ですが、↓の訳詩では味わえない仏語の韻を踏…

石川啄木 「一握の砂」などより

高校生のころ、日本文学の授業で習った文学史、大嫌いでした^^; 貧乏臭く、負け犬というイメージがなんとも肌に合わなかったのです。でも、授業でかじった断片と、本物の文章はまったく別物でした。 おかげで、日本の文学食わず嫌いで大変な損をしていた…

くちづけ~「知の擁護」masayukiさんのブログより~

立ち止まった君の瞳に映る空に 小さな雲が流れた 数秒前・・・・・ ほんの数秒前 震えていたぼくの指先 薄く閉ざされた君の目蓋の奥から 柔らかな光りが零れた 数時間前・・・・・ ほんの数時間前 繰り返し聴いていた曲が耳に蘇る 春の風を閉じこめた君の襟…

春爛漫

この季節になると思い出すものそれは西行の歌。 願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃 昨日は東京は雨、そして今日は花散らしの風が吹き荒れています。 桜の花の命は短いですね。 西行をはじめ歌人たち、詩人たちはその美しくも儚い花に数々の…

中原中也 『在りし日の歌』より

久しぶりの「詩歌」書庫の更新です。 中原中也の詩は、不思議なリズムがありますね。 この『北の海』は大島弓子の「海にいるのは」の元歌ではないでしょうか? 北の海 海にゐるのは、 あれは人魚ではないのです。 海にゐるのは、 あれは、浪ばかり。 曇った…

愛の賛歌 ~新約聖書・コリント人への手紙・13章~

たといわたしが、人々の言葉や御使たちの言葉を語っても、もし愛がなければ、わたしは、やかましい鐘や騒がしい鐃鉢と同じである。 たといまた、わたしに預言をする力があり、あらゆる奥義とあらゆる知識とに通じていても、また、山を移すほどの強い信仰があ…

桜が咲きはじめると・・・

東京の桜もそろそろ見ごろを迎えてます。 木によっては、もう5分咲きくらいまでほころんでいるところも。 この季節を迎えると思い出すのが 願わくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ 西行の有名な歌です。 桜を愛し、花の歌をいくつも詠んだ西…

北原白秋 『落葉松(からまつ)』

からまつの林を過ぎて、 からまつをしみじみと見き。 からまつはさびしかりけり。 たびゆくはさびしかりけり。 からまつの林を出でて、 からまつの林に入りぬ。 からまつの林に入りて、 また細く道はつづけり。 からまつの林の奥も、 わが通る道はありけり。…

しろがねの猫こがねの蝶~蕪村~

久しぶりに「詩」の書庫の更新です。 江戸時代の俳人、与謝野蕪村。 松尾芭蕉、小林一茶と並ぶ江戸俳諧中興の祖、俳画の創始者でもあります。 蕪村の句は、空間が大きく色合いが豊かです。 画家でもあった蕪村は、世界の様相を瞬間にとらえ、印画紙に焼き付…

良寛~純粋なとらわれない心~

この記事を書くきっかけは、昨日行った居酒屋「笑笑」の壁にありました。 そこには良寛さんの歌と子供と手まりに興じる良寛さんの姿が描かれていたのです。 手毬をよめる 冬ごもり 春さりくれば 飯(いひ)乞ふと 草のいほりを 立ち出でて 里にい行(ゆ)けば た…

三好達治 『測量船』

雪 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降りつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降りつむ。 首途(かどで) 真夜中に 格納庫を出た飛行船は ひとしきり咳をして 薔薇の花ほど血を吐いて 梶井君 君はそのまま昇天した 友よ ああ暫くのお別れだ・・・ おつつけ僕か…

佐藤春夫 『殉情詩集』

佐藤春夫と谷崎潤一郎夫人千代との道ならぬ恋は、つとに有名ですが、春夫はこの苦しくつらい気持ちを詩に残しています。 その「殉情詩集」と名づけた詩集の自序にこうあります われは古風なる笛をとり出でていま路のべに來り哀歌(かなしみうた)す。節古びて…

上田敏訳 『落葉』 『山のあなた』

落葉 ポオル・"ヱルレエヌ 秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し。 鐘のおとに 胸ふたぎ 色かへて 涙ぐむ 過ぎし日の おもひでや。 げにわれは うらぶれて こゝかしこ さだめなく とぴ散らふ 落葉かな。 山のあなた カアル・ブ…

酒聖・若山牧水

国民的な人気のある歌人といえば若山牧水などは筆頭にあがるのではないでしょうか。 旅と酒をこよなく愛し、43歳でこの世を去った牧水は9000もの短歌を残しました。 その中でも最も有名なものは 白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ …

暮鳥・三態

山村暮鳥は先日「いちめんのなのはな~」の「風景」を紹介した詩人です。 その後、彼の詩集などを読むうちに、なんとも不思議な作家であること、そして魅力に満ちた不思議な詩を書いた詩人であることがわかりました。 短い期間の創作活動のなかで、作風が変…

与謝野晶子 『君死にたまふことなかれ』

君死にたまふことなかれ ――旅順口包囲軍の中に在る弟を歎きて あゝをとうとよ、君を泣く、 君死にたまふことなかれ、 末に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも、 親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや、 人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや…

安西冬衛 『春』

春 てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行つた。 一行の詩の中に、この上なく美しい一枚の絵画が浮かび上がります。 <蝶来タレリ!>韃靼ノ兵ドヨメキヌ(辻征夫) こういう句もありました。

中原中也 『サーカス』

サーカス 幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました 幾時代かがありまして 冬は疾風吹きました 幾時代かがありまして 今夜此処での一(ひ)と殷盛(さか)り 今夜此処での一と殷盛り サーカス小屋は高い梁 そこに一つのブランコだ 見えるともないブランコだ 頭…

西条八十 『帽子』

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね? ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、 谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。 母さん、あれは好きな帽子でしたよ、 僕はあのときずいぶんくやしかった、 だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。 母さん、…

金子みすず 『私と小鳥と鈴と』

私と小鳥と鈴と 私が両手をひろげても、 お空はちっとも飛べないが、 飛べる小鳥は私のやうに、 地面(じべた)を速くは走れない。 私がからだをゆすっても、 きれいな音は出ないけど、 あの鳴る鈴は私のやうに、 たくさんな唄は知らないよ。 鈴と、小鳥と、…

谷川俊太郎 『朝のリレー』

朝のリレー カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき ローマの少年は 柱頭を染める朝陽にウインクする この地球では いつもどこかで朝がはじま…

山村暮鳥 『聖三稜玻璃』より

風 景 純銀もざいく いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな かすかなるむぎぶえ いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんの…

漂白の歌人 西行

次は西行をUPします、なんて大きい事言わなければよかった。 後悔先に立たず・・・なるほど、こういう時に使うのね、と納得した私でした。 ともあれ、時は桜の季節。西行がいなかったら日本人はこんなに桜が好きではなかったのでは、と言われるくらい、西行…

谷川俊太郎 『死んだ男の残したものは』

死んだ男の残したものは ひとりの妻とひとりの子ども 他には何も残さなかった 墓石ひとつ残さなかった 死んだ女の残したものは しおれた花とひとりの子ども 他には何も残さなかった 着もの一枚残さなかった 死んだ子どもの残したものは ねじれた脚と乾いた涙…

高村光太郎『ぼろぼろな駝鳥』

何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。 動物園の四坪半のぬかるみの中では、 脚が大股過ぎるぢゃないか。 顎があんまり長過ぎるぢゃないか。 雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢゃないか。 腹がへるから堅パンも食ふだらうが、 駝鳥の眼は遠くばかりみてゐる…