萩原朔太郎 『青猫』

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青猫


この美しい都會を愛するのはよいことだ

この美しい都會の建築を愛するのはよいことだ

すべてのやさしい女性をもとめるために

すべての高貴な生活をもとめるために

この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ

街路にそうて立つ櫻の竝木

そこにも無數の雀がさへづつてゐるではないか。





ああ このおほきな都會の夜にねむれるものは

ただ一疋の青い猫のかげだ

かなしい人類の歴史を語る猫のかげだ

われの求めてやまざる幸福の青い影だ。

いかならん影をもとめて

みぞれふる日にもわれは東京を戀しと思ひしに

そこの裏町の壁にさむくもたれてゐる

このひとのごとき乞食はなにの夢を夢みて居るのか。

月野さんの記事から青猫を拝借いたしました。
朔太郎の第二詩集です。