モンス・デジデリオ・廃墟の崩壊

16世紀後半、宗教改革の嵐が吹き荒れ、不安な情勢のなかでマニエリスムと言われる芸術が生まれました。ルネッサンスの調和や均衡から遊離したこの傾向は、当時の絶対君主制の宮廷に囲われることにより、洗練と抽象性を強めイタリアからフランス、ヨーロッパ各地へ広がっていきます。その中でも特異な存在の画家モンス・デジデリオの作品は、時代の不安を反映したような廃墟とその崩


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モンス・デジデリオ「沈黙」ローマ 個人蔵


 まるで世界が終焉を迎えたような作品bです。

信じられない事にこの画家は長い間歴史の闇に埋もれていました。20世紀になってルネ・ホッケやアン

ドレ・ブルトンらによって再発見された謎の画家なのです。日本で最初に紹介したのが故・澁澤龍彦氏で

「幻想の画廊から」に取り上げられたのが初めてでした。この美しい画集は澁澤の美意識に選別された作

品が並び、異端の魅力に満ちています。


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モンス・デジデリオ「幻想的建築群」 ローマ 個人蔵


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モンス・デジデリオ「聖女の殉教」


 彼は崩壊する建物以外にも、聖者たちの殉教などを好んで題材としました。映画などの映像作品を見な

れている私たちも、デジデリオのドラマティックでスローモーション撮影のような絵画に触れる時、驚愕

を隠せません。


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モンス・デジデリオ「偶像を破壊するユダ王国のアサ王」


どの作品も緻密な筆使いで、建造物や人物が描かれています。全体にもやがかかったような、特に遠景の

幻想的て不安をかきたてるような描き方が特徴です。意識下に潜む悪夢を引き出したような作風がシュル

レアリスムの先駆者と言われる所以でしょう。モンス・デジデリオは工房所属の画家で、現在は二

人の画家が一つの名前で描いていたと分かっています。


 マニエリスムの芸術家には、後のシュルレアリスムに通じる作品を残した人が多くいます。モンス・デジデリオの描く廃墟、崩壊する世界、終末思想は私たちの生きている現代社会にも、強く訴える力をもっています。