恒川光太郎 『竜が最後に帰る場所』

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内容説明

恒川光太郎が五つの物語で世界を変える―。風を、迷いを、闇夜を、鳥を。著者はわずか五編の物語で、世界の全部を解放してしまった――。静謐な筆致で描かれた短編は、小説の新たな可能性を切り拓く!
 
 
 
久しぶりの恒川さん。
いやあ、これよいですわ~!
幻想的な短編5篇が収められてます。
 
「風を放つ」
これだけ他と少し毛色が変わってみえました。雑誌群像に掲載された作品なのですね。どうりで、日本文学の香りがするわけです^^;
小さな瓶の中に閉じ込められたつむじ風のようなもの。
青春の一時期にかかわったことのある一人の女性。会ったこともない彼女にまつわるあまり愉快とは言えない記憶が語られます。
 
「迷走のオルネラ」
これだけ既読でした。エソラに載っていた短編ですが、DV男とその被害者の少年が主人公。
現実に起きたことは、単純な復讐劇になるのでしょうが、その中に「月猫」という幻想的な漫画が挿入されることによって、不思議な2重性のある作品に仕上がってます。
 
「夜行の冬」
いかにも恒川さんらしい作品で、夜の中をさすらい続ける人々のお話。
どこか懐かしいような、恐ろしいような、不思議な魅力のある作品でした。ただひたすら次の町をめざして歩き続ける。次の町には、まったく違った人生が待っている。
先導役の女も化け物めいて、後ろからは異形のものが獲物を求めて追いかけてくる。
いつもながら恒川節とでもいう独特の透明感と毒と美しさのある傑作でした。
 
「鸚鵡幻想曲」
今回の一番の収穫。
疑似集合体という発想が素晴らしいし、鸚鵡へとつながる展開も恒川さんならではのアイデアですね。
 前半のアサノがメインの部分と後半の南の島の部分のがちぐはぐなところも、魅力になってます。
現代のおとぎ話、ホラ話としても秀逸です。
 
 
「ゴロンド」
竜たちの話。
豊かなイメージがあふれていて、楽しい作品でした。女の子の竜の「キュハリラ!」が好きです^^;
タイトルの「竜が最後に帰る場所」が描かれてます。なかなか壮大な作品です。
 
 
全体に好きなタイプの短編が多くて嬉しい短編集になりました。
人間の中にある太古の記憶とか、夢の中で会った人とか、初めてなのにこの場所の記憶がある、とか。
気配を感じてふっと振り返るとそこにはもう何もいない、とか。
幻想的なのですが、どこにでもあるような日常のはざまに垣間見る不思議といった、恒川さんらしい作品が多かったですね。