皆川博子 『聖女の島』

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 修道会により絶海の孤島に建てられた更生施設。盗みや恐喝を重ね、幼くして性の歓びを知る31人の少女たちが聖女のもとで暮らしていたが、3人が死亡し、ホームは炎に包まれ、悪魔の罠ともいうべき悲劇に見舞われる。
 28人になったはずの少女たちが何度数えなおしても31人いる・・・・!
 甘美な謎に満ちた傑作幻想ミステリー。

もねさんが発信してbeckさんが主催する皆川祭り(!?)ですが、その祭りに乗り遅れた私も、やっとこの話題の作品を読んでみました。

例の長崎にある軍艦島がモデルのようで、「聖女の島」と言ってもそこは棄て去られた廃墟が重なり合うように建ち並ぶ、荒れ果てた残骸の島です。
かつては炭鉱の華やかな活動があり人々がひしめいていた街の遺棄された姿。
高層アパートが無秩序に建ち並び、破れたガラス窓がきしむ。
空中に渡された回廊は途中で途切れ、梯子はたどり着く場所もなく途切れている。

この島の荒れ果てて、人を拒絶する雰囲気。
そこに強制的に閉じ込められた少女たち。

もう舞台設定だけでご飯3杯いけてしまいます。

そして語り手の修道女と、施設の責任者である園長の二人。
修道女の感情を一切排した語りと、饒舌で激しやすい園長の語りが対照的です。

いったい島で何が起こったのか、いや、起こらなかったのか?

謎を孕みながら物語りは破局へと進んでいくのです。

皆川作品独特の幻想的で、眩惑されるような文章。
園長の独白が続き、心の均衡を失った女の心象風景が現実に投影されてくる。

読んでいるうちに、夢なのか過去の記憶なのか、はたまた彼女あるいは他の人物の妄想なのか、眩暈するような文章に酔わされてしまいます。
登場人物も、エピソードの一つ一つも、一様に調子のくるった音程のロンドを聴かされているようです。

読者を選ぶ作品でしょう。
女たちが醸し出す濃密な雰囲気は、毒気に満ちていてやけにあざとい美しさがあります。
ミステリともホラーとも、サイコサスペンスとも呼ぶのをためらう、美意識に満ちた物語でした。