『0番目の事件簿』 メフィスト編集部・編

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 本書『0番目の事件簿』は「メフィスト」誌の連載企画をまとめたもので、十一人のミステリ作家がデビューする前に書いた作品に執筆の背景を語るエッセイを添えたものが並ぶ、という大胆にして異色のアンソロジーである。アマチュア時代の未熟な作品は、「読者の目に触れて欲しくない」と思うのが通例だというのに、どうしてこんな企画が成立してしまったのか?
 自分も参加しているのに驚いてしまう。承諾に踏み切るに至った理由は、個々の作者のエッセイをお読みいただきたい。
 「習作を集めて売るというのは、いかがなものか」と思う方がいらっしゃるかもしれないが、その是非はお読みいただいた上での判定を待ちたい。参加者の一人として、この破天荒な本は収録作家の熱心なファン向けの座興や小説家志望者への参考資料というのにとどまらず、他に類のない面白い本になっていると信じている。
(有栖川有栖 まえがきより抜粋)



たしか新聞の文芸欄に紹介されていて、興味をもった本書。

いや、これが滅法面白い。

私など熱心なメフィスト系作家の読者ではなく、11人の中でも、読んだことのない作家が4人もいる。なのに、デビュー前のいわばアマチュア作品を読まされても、面白いのだ。
理由の第一は、ミステリへの熱。
どの作品も、いろいろな書かれ方をしているのだが(ミステリサークルの親睦会の余興用の犯人あてを列車のなかで書いた作品(!)とか)、純粋で真摯なミステリへの熱い思いがにじみ出ている。
理由の第2が、それぞれの作品の後に載っている作家たちのエッセイ。
皆一様に「うぐぐぐぐ~~」とMなもだえ方をしていて、これを読むのが(悪趣味と言われそうだが)、ホント可笑しかった。

なんといっても、アマ時代のしかも習作である。その未熟な作品を、明らかな誤字脱字以外は推敲をせずに一字一句そのまま掲載する、という「私、そんなにされるほど悪いことしましたっけ」的なドS企画なのである。

読んでみると、やはり栴檀は双葉よりかんばし、と言いたくなるような作品が多い。
有栖川さんなど、いかにも学生っぽいのだが、のちのロマンチストが顔をのぞかせているし、西澤保彦さんは、今の短編といってもまったくおかしく感じないほど、作風(芸風?)が同じ。

また、ワープロや原稿用紙ではなく、横罫のノートに几帳面な手書きで書かれた作品の写真もあり、貴重な資料としても面白い。
多かったのは、大学などのミステリサークルで、無理やり、または嬉々として?書かれた習作である。
当然同人誌の写真もエッセイに付けられている。これも、手作り感ばっちりの、なかなか味のある冊子なのだ。

皆、若く、デビューのあてもなく、ただただミステリにのめり込んで書き連ねた作品。
綾辻さんのように、レベルの高いものも多いけど、それよりなにより、彼らの熱がこちらまで伝わってくる熱い熱いアンソロジーだった。


※私の好みでは、西澤、綾辻作品がよかったです。
 初野さんもホラーテイストで面白かった。