今野敏 『隠蔽捜査』『果断～隠蔽捜査２～』

久し振りに面白い警察小説を読んだ。

それも今までの警察小説とはかなり違ったニュータイプ。

この作品の主人公、竜崎は警察庁の官房に勤務するスーパーエリート官僚である。
読み進むにつれ、「東大以外は大学ではない」とか「家のことは妻に全てまかせてある」とか「部下であっても決して信用してはならない」とか、なんとも感じの悪いエリート臭プンプンのキャラが見えてくる。

しかも傍若無人な俺様キャラ。

もちろんいい人ばかりが主人公というわけではない。ほお、この著者はこういうヤナ奴を中心にすえたのか。そう思って読み進んでいった。
ところが、事件が起き、連続殺人の様相を帯びてくる。
そしてその状況が指し示す犯人像とは・・・。

警察が威信を汚すことを恐れ、誰もが隠蔽に走ろうとするさなか、竜崎の1本筋の通った論理が見えてくる。
曰く「官僚は国家のために命を投げ出す覚悟がなければならない」曰く「事件を解決するのが警察の勤め、組織防衛は瑣末なこと」

単純で明快な竜崎の論理。
なわばり意識も身内をかばうことも、彼の信条としてはありえない。
そして彼もまた家庭に問題をかかえ、官僚としての未来を閉ざされるような危機に直面していく。

このへんの展開はなかなかスリリングである。
組織にのみこまれてしまう友人の伊丹。
正論を通す竜崎。

だんだんヤナ奴竜崎がかっこよく見えてくる。

そして家族たちもかっこいい。特に奥さんは素晴しい。漢だった。

大満足で本を閉じた。

そして2日後。
さっそく竜崎に再会するために「果断～隠蔽捜査２～」を読んだ。

これがまた面白い！
絶対１から読むべきだ。
竜崎の性格を把握してから読むと、ツボにはまっておおいに笑える。

「隠蔽捜査」で降格人事となり大森警察署の署長に着任した竜崎。
ここでも慣例や縄張り争いをバッサリ斬って捨てる竜崎の行動に胸のすく思いをする。

今回は拳銃強盗のたてこもり事件。
途中からはミステリとしても引っ張ってくれる。

お馴染みの伊丹、不良刑事の戸髙。
敵役の野間崎管理官。ＳＩＴやらＳＡＴやら、にぎやかに登場する面々も活き活きと描かれて、もうページを閉じられなくなってしまう。

この巻では漢（おとこ）の奥さんが胃潰瘍で倒れるという事件もサイドストーリーとして挟まれ、竜崎が家庭での自分を省みるというオマケ付き。

是非2冊続けて読んでほしい傑作警察小説だ。