マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 『笑う警官』

出版社/著者からの内容紹介
ベトナム反戦デモが荒れた夜、放置された一台のバスに現職刑事八人を含む死体が! 史上初の大量殺人事件に警視庁の殺人課は色めき立つ。アメリカ推理作家クラブ最優秀長編賞受賞の傑作。


りぼんさんが紹介されていたスウェーデンのミステリ、「マルティン・ベック」シリーズ。そのシリーズ最高といわれているのが本書「笑う警官」です。
全10巻のこのシリーズの第4巻目となります。

実は、先日の一言メッセージに書いた「全10巻の10冊目を読んでしまった。」というのはこのシリーズのことで、「テロリスト」という本のことです。
いやはや、この作品もまた、非常におもしろい。
最終巻なので、今までのキャラたちも総出演だったようです。

粗忽な読み方で、失敗したので、もう最高傑作を読んでしまえとばかりに「笑う警官」に手をつけました。

いいですねえ、マルティン・ベック。
警察小説の白眉と言われてますが、本書の魅力は、1968年のスウェーデンのリアルな風景やそこに生きる普通の人達の人間臭い生き様などが、精緻に、しかもテンポよく描かれているところといえます。

路線バスで起きた残虐な集団射殺事件。
そのなかに一人、ベックの同僚である若い警官が混じっていた。

一見、無差別大量殺人と見えた事件の真相は、調査を進めるにつれ、複雑に絡み合う謎を生んで、思いもかけない過去の事件へと結びついていきます。
その過程は、地道で根気のいる捜査のみ。
ホームズや御手洗潔のような神のごとき推理が展開するわけではありません。というより、ベックの頭脳の出番になるのはかなり後のこと。
彼のチームの活躍のほうがメインになり、刑事たち各々の個性的なキャラクターが捜査の過程で光っていきます。

容疑者、関係者、証人。
事件をめぐる幾多の人間たちもまた、血の通った人間味あるキャラクターとしてあらわれます。
バラバラに集めた証言や、証拠が断片的に提示され、終局に向けてたくみに一つの意味を持っていくところなど、お見事な手腕でした。
スリリングな推理小説としても、大変価値のある作品です。

ベックは、この作品では冷え切った妻との関係に悩み、風邪を押して捜査する猫背の男として描かれています。親友のコルべりが若い妻グンと、愛情に満ちた生活を送っているのも対照的です。
そして巨漢ラーソン刑事もまた魅力あるキャラでした。

彼らがチームになって、不平をたれながら厳しいストックホルムの冬のなか、難事件にたちむかう姿にまた再会したくなります。
そう、まだ8冊も残っているのです。

やはり、次は1巻の「ロゼアンナ」を素直に読むべきでしょうね^^;