深水黎一郎 『五声のリチェルカーレ』

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内容(「BOOK」データベースより)
昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも―。少年の回想と森本の調査に秘められた“真相”は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。

あれ?貫井徳郎?と間違えそうな少年による凶悪犯罪テーマ。

昆虫好きの大人しい少年によるナイフ殺人事件。それはもうすでに起こってしまった事件であり、司法関係者である森本のパートで明らかです。
時制が前後しながら、少年の過去における壮絶なイジメの体験や、昆虫に対する独特な見方が語られていきます。このへんは芸術探偵シリーズにも通じる蘊蓄ではあるのですが、この作品では少々不気味なところが見られます。
人間関係と昆虫の擬態の相関性など、ちょっと、というか、かなり気持ち悪い発想ですね。

主人公は転校によってイジメから逃れられたのか、それとも、まだ悪夢は終わっていないのか。

親も教師も助けてくれない中、彼は擬態によって生存するすべを学んでいく。


特筆すべきはやはりラストの驚愕でしょう。ラストで明かされる前にも、見抜きポイントはありますが、そこで気づいてもビックリです。
あれ?もしかして!とページを戻って読みなおしてしまいました。
タイトルの五声のリチェルカーレはバッハの作品らしいのですが、このへんの音楽の蘊蓄と内容があまり噛み合ってなかったような。無理にこういうものを持ってこなくてもよかったかな、という感想です。

いつもの芸術探偵もよいのですが、こちらはこちらで楽しめる作品になってました。(上から目線^^)

同時収録の「シンリガクの実験」もちょっと不思議な後味の短編。
けっして感じのいい作品ではないのですが、展開の面白さで読ませます。

いつもの深水さんとは違うテイストも悪くないと思った中短編でした。