近藤史恵 『サクリファイス』

内容（「BOOK」データベースより）
ただ、あの人を勝たせるために走る。それが、僕のすべてだ―。二転三転する真相、リフレインし重きを増す主題、押し寄せる感動!自転車ロードレースの世界を舞台に描く、青春ミステリの逸品。

近藤作品としては異色なロードレースを描いたものですが、自転車競技の奥深さや特殊なルールなど、とても分かりやすくて門外漢でも楽しく読めました。ちょっとツール・ド・フランスなんかも観戦したくなってきますね。息苦しいほどレースにのめり込む選手の姿や、そこで起きる事件など展開も早く、一気に読めました。
エースとアシストという関係、同じチームで走っていても、ただ一人を勝利させるために、働くというあまり他のスポーツに見られないルールが面白かったです。非情にアシストを利用し踏み越えて勝利をつかむエースの、孤独や苦しさが伝わってきます。
チーム競技なのに、皆けっこう自分勝手な性格の持ち主が多かったのも、ちょっと意外な感じを受けました。でも、そういう印象さえも、ラストの謎解きにそなえてたのかなあ、としっかりだまされていました。
以下、内容に触れてます。未読の方はご注意。

なによりチカと石尾の間に起こっていた感情のもつれが、おおきく変化していくところには感動を覚えました。そこでこのタイトル「サクリファイス（犠牲）」がすとんと腑に落ちたのですね。
ラストの「行けよ」には、こちらの背中までトンと押されるような、そんな気持ちにさせられました。
石尾の自転車にかける情熱や、チカに対する期待、夢、もろもろの複雑な思いが最後に一気に迫ってくるあたりは感動的でした。

続編の「エデン」も近いうちに読んでみたいと思う秀作でした。

青春ミステリと解説などでは謳ってますが、やはり軸は石尾や伊庭、そして袴田など男臭いメンバーでしょう。
主人公チカがちょっとクールなところなど、近藤さんらしいキャラだなと思いました。

※さっき知ったのですが、石尾の若いころの短編がストーリーセラーに載っているらしいですね。こちらもチェックです。石尾の男っぷりにひかれます。