恩田陸 『土曜日は灰色の馬』

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身体がゆらゆら揺れるような気がする。地震?いや、どうも地震酔いらしい。

どうも最近は余震が多いせか、はっと気付くと部屋がゆらゆら揺れている。恩田陸の小説にくらくらさせられるのは大好きだが、地震酔いはいただけません(苦笑)






大好きな小説、少女マンガ、映画について、軽やかに語る恩田さんのエッセイ集。3部からなる構成です。「Ⅰ面白い本はすべてエンタメ」「Ⅱ少女漫画と成長してきた」「Ⅲ暗がりにいる神様は見えない」


Ⅰ面白い本はすべてエンタメから


レベッカ」で、マンダレーの炎上シーンが描かれていないことには、私もビックリしました。「レベッカ」といえばダンヴァーズ夫人もろとも焼け落ちる壮大なシーンが目に浮かぶのです。
それが「そして海からの潮風にのって、灰が飛んできた。」この1行だけで表されていた!

カバンに本とぐいのみを入れて

旅行で読書。それについて熱く語りますね~。
途中から奔流のように本のタイトルがあふれだして、語るスピードもUP。紀行文やブログ本、ホラー、ミステリ、旅する哲学にいたるまで。


ケレンと様式美、スター三島に酔いしれたい。

三島由紀夫文学の様式美とその台詞まわしに「胡散臭い虚飾の匂いのする」という表現がいいですね。三島に関係なくすごく気になったのが、恩田セレクトの「一見上品なふりをしているが本当はスケベな世界文学」(笑)日本勢はいいとこいってるらしいですよ。
その上位にはいるのが「憂国」。
最後に「春の雪」をはじめとする「豊穣の海 4部作」についていわく「三島はぎりぎりフラワー・チルドレンに間に合ったということになるのかもしれない」にはまいった!
三島、草葉の陰から「ちょ、違うし!」と叫んでいるかも(笑)

挿絵の魔力

これには大いに同感!
ここに挙げている本、読んだものに関してはもろ手を挙げて賛成です。
子どもの頃に読んだ絵本、本たちに添えられている挿絵。秀逸なものは本文と分かち難いイメージを読者に与えるものですが、その記憶に残る挿絵でも、どういうわけか、ダークな画調のものに惹かれたという。


Ⅱ少女漫画と成長してきた

このへんは、まさに精神的故郷についての記述だけに、共感することばかり。
少女マンガとともに成長してきた世代。それも少女漫画自体が大きく変貌をとげ、成長した時代を体験した世代だけに、思い入れもたっぷり。
篠有紀子、おおやちき、清原なつの、そしてアラベスクの第2部についての記述がおもしろかったです。


Ⅲ暗がりにいる神様は見えない

米国ドラマ「24」にはおはなしの神様がいない、という意外に思える新説からはじまるこの章。
面白かったのが「うろ覚えの恐怖」というところ。
私が恩田作品に感じる一番の魅力は「恐怖」ではないかと思っています。グチョグチョどろどろの海外ホラーもいいけれど、恩田作品の「こわい」には何か他の味わいが含まれているのではないでしょうか。
「月の裏側」に感じる怖さとノスタルジーの融合。「ユージニア」の「恐ろしい真相」の周りをぐるぐる回り続けるような幻惑感。
モダン・ホラーは面白すぎて怖くない、というのも頷けるところ。
「本来、ゴースト・ストーリーは地味でそっけなく、隙だらけでカサカサしているのである。」
「何より私は『今にして思えば』や『誰かに聞いた話なんだけど』というフレーズが怖いのである。」

恐怖について語る恩田陸は、本当に怖いです(笑)




恩田さんのエッセイはすべて面白く読んできましたが、この本も前2冊とは違った切り口でとても楽しめました。
恩田さんの知識にも驚嘆しますが、なにより恩田陸の本への愛がびんびん伝わってくる作品でしたね。