島田荘司 『暗闇坂の人喰いの木』

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出版社/著者からの内容紹介
さらし首の名所暗闇坂にそそり立つ樹齢2千年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ?近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とはなにか?信じられぬ怪事件の数々に名探偵御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨をきわめた。本格の旗手が全力投球する傑作。

初期の御手洗シリーズの傑作です。

先日記事にした「斜め屋敷」もそうですが、この頃の島田荘司氏のミステリはどれを読んでも間違いなく面白いです。簡潔でいて人を惹きつける文章。場面転換の妙。そしてなにより御手洗潔の人間的な魅力。
語り手である石岡君の魅力も付け加えて、無敵の面白さを誇っておりましたね。

本書もまた、御手洗潔が無名時代の事件を扱ったもので、600ページを超える大長編ながら読み始めると止めるのが難しいほどの面白さです。もう聞き飽きたかもしれませんが、今回も内容はすっかり忘却しておりまして、初読と同じくらい楽しんでしまいました^^;

横浜に実在する「暗闇坂」。元、刑場だったという史実に基づいて島田氏が大風呂敷を広げてくれます。

スコットランドネス湖に近いフォイヤーズ村。
そこで起きた、少女誘拐事件。殺害されて壁の中に塗り込められた少女。
しかし、村の巡査が壁を壊してみると、死体は跡形もなく消え去っていた。

そして、何年かたったあと舞台は日本へ移り、敗戦直後のすさんだ世相、人を食うという噂のある大楠の話となり、木から落ちてきた惨殺された少女の死体、と、不思議で、残酷な未解決の事件が語られます。
そして、過去の亡霊が再び現れて事件を起こしていく。なんと暗闇坂の洋館の屋根の上に、男が座ったまま死んでいるのが発見された。
不気味な数々の事件が、坂の上に聳える大楠を中心にして語られていきます。真の犯人はこの樹齢2000年ともいわれる巨木なのだろうか。

無理やり事件に首を突っ込む御手洗たちの前に、モデルとして活躍中の松崎レオナが現れる。

ああ、レオナ!!!こんな初期から顔を出していたんですね。
でも、この作品では被害者の家族という立場なので、ワル目立ちもせず、邪魔にならない存在でしたね。(どんだけレオナ嫌いなんだ、ワタシ(笑))


御手洗の推理は真実を突き止めますが、それを語れば傷つき、立ち直れなくなりそうな人が出てくる。
真相は封印され、石岡にすら語られることはない。


普段は冷たく自己中心的な男に見える、御手洗が、ふと見せる思いやりがいい。
いつでもいい人の石岡君には気の毒だけど、こんな御手洗のような人が側にいつもいたら、女性はみんなそっちになびいてしまいますね。

しかし、この作品の御手洗は、とっても変人です。
独楽は右回りと左回りのときでは重さが違うとか妙なことを喋っていたかと思うと、、大声で外国語の歌を歌ったり。憂鬱症でふさぎこんでいる石岡君をなお、落ち込ませてしまいます。
確かに、たまに見るにはいいけれど、一緒に住んだり友人にしたりには向かないキャラクターでしょうね。

数年後に語られる真相。
真相はかなり衝撃的で、グロテスクです。
事件から何年もたっても、いまだ戦慄を禁じえないという石岡君の言葉もおおげさではありません。
そして、殺人事件のほうのトリックは・・・ふふふ、さすが島田荘司!ゴッド・オブ・ミステリですね~。
ありえない~!とは思うものの、島田さんだから許せてしまう(笑)

分厚い外見に尻込みしないで読んでみてくださいね^^;
日本の近代ミステリの傑作です。


追加:
島田さんがミステリ作家として言われてきたことを御手洗の口を借りて反論しているような文章があったので載せてみます。

石岡「いずれにしても、謎が残っては推理小説として成立しない。」

御手洗「だが文学は成立するさ。人生はやっかいな謎だらけだからね。本当は解けない謎なんてそのうちのごくわずかなんだけど、みな自己愛から、自分の人生に対して盲人になるのさ。
彼らは人生は不可解なるものと言った、偉大な文学的先達の催眠術にすっかりかかっている。だから謎のすべてが解決する本など書くと、これは漫画だとか安手の探偵小説だ、などといって馬鹿にされるのがおちだぜ。」
ちゃんちゃん♪