宮部みゆき 『我らが隣人の犯罪』

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内容(「BOOK」データベースより)
僕は三田村誠。中学1年。父と母そして妹の智子の4人家族だ。僕たちは念願のタウンハウスに引越したのだが、隣家の女性が室内で飼っているスピッツ・ミリーの鳴き声に終日悩まされることになった。僕と智子は、家によく遊びに来る毅彦おじさんと組み、ミリーを“誘拐”したのだが…。表題作以下5篇収録。 

以前Cuttyさんの記事で、宮部作品のベストとだと仰っていたのを読んだことがある。
ずっと記憶のすみにあったのだが、宮部氏の作品は読む気にならない時期があって、なんとなく敬遠していた。そして、ここ最近、古いミステリや島田作品の再読などしてるうちに、だんだん宮部風が吹いてきて手を出してみようと思い立った。

表題作がデビュー作らしい。ごくごく初期の短編集である。

宮部みゆきは、長編の人だと思って今まで生きてきた自分を恥じてしまう。彼女はオールマイティの人であった。(by北村薫

「我らが隣人の犯罪」
隣人が飼っているスピッツ。とにかく一日中ほえっぱなし。
僕と叔父さんは、あまりのうるささに耐えかねて犬を誘拐する計画を立てる。

まるでミステリランドで出したいくらいの良い作品だ。
中一の「僕」とちょっと不思議なところのある叔父さんのコンビがとても好き。妹の病弱な智子も、2人の計画に乗っていくうちに、とっても生き生きとしてくる。

この子誰の子
僕の家に突然飛び込んできた女性。赤ん坊を抱いて、「この子はあなたのお父さんの子供よ」とのたもうた。
でも、僕は父さんが子供をつくることはありえないことを知っている。そして、それを両親に知られてはいけないことも。

ドタバタな導入部から始まって、秘密を明かされしんみり、ラストはじんわり暖かい。宮部さんのマジックにかかったら一気読みです。

サボテンの花
六年生の卒業研究はサボテンの超能力を研究すること。
権藤教頭は担任の反対を押し切って、ユニークな課題を認めた。
そんなざっくばらんな先生が他の杓子定規な教師たちや保護者からの受けがいいわけはない。しかし、子供たちはそんな教頭先生が大好きだ。

この短編が一番よかった。六年生の奇妙な行動や、巧みな伏線が最後に嵌っていくところなども楽しいが、やはり生徒と教頭先生の暖かい絆にやられてしまった。心に沁みるお話。

祝・殺人
結婚式の披露宴でエレクトーン奏者が見た隠された真実。
祝電というありふれた披露宴のアイテムから、残酷でゆがんだ殺意を導き出す。この短編集でただ一つ、殺人が題材になっている。

バラバラ殺人という設定、ゆがんだ心が生む動機。重い犯罪を取り上げているが、刑事を導いていく美人エレクトーン奏者の独特な推理が秀逸。

気分は自殺志願者(スーサイド)
推理作家の海野周平は公園で見知らぬ男に声をかけられる。
「推理作家なら、私を完全犯罪で殺してくれませんか」
仰天の導入部から、ユーモラスな展開。そしてラストはニンマリの楽しい短編。


以上5篇、どれも美味しい作品だ。
宮部さんの短編もこれからは読んでみたいと思った。