島田荘司 『斜め屋敷の犯罪』

イメージ 1

内容(「BOOK」データベースより)
北海道の最北端、宗谷岬の高台に斜めに傾いて建つ西洋館。「流氷館」と名づけられたこの奇妙な館で、主人の浜本幸三郎がクリスマス・パーティを開いた夜、奇怪な密室殺人が起きる。招かれた人々の狂乱する中で、またもや次の惨劇が…。恐怖の連続密室殺人の謎に挑戦する名探偵・御手洗潔。本格推理名作。 

今年の読書計画「古い作品の再読」、さっそく島田作品を読んでみました。

1982年に発表された御手洗潔シリーズ、第2作目の長編本格推理です。

当時、新書版で読んだ読者でしたが、いやあ忘れてる忘れてる(笑)かろうじて犯人だけはトリックの関係で、「ああ、こいつだ」と思い出したものの、なんともキレイさっぱり忘却しておりました。
そして今、再読してみると島田氏の奔放な想像力が、トリックや本格としてのフェアなどを超えた凄い作品でした。

もちろん、あのナイフがムニャムニャするトリックはしっかり記憶していましたが(まあ、あの大胆な仕掛けは忘れるほうが難しいですよね)その斜め屋敷にちなんでの、氏の薀蓄、ポーやボードレール、はたまたロートレアモンに至る引用には、大胆な(バカバカしい)トリックより、もっと書きたかったものは他にあったのかもしれないな、と思わせるものでした。
それは、ミステリという形式を借りて、島田氏が表現したかった美のようなものです。

流氷を臨む凍てつく大地に、ただ1軒だけ建つ斜め屋敷。

吹雪の夜に起こる密室殺人。

夜の闇に飛翔する不気味な男の顔。

ゴーレムと呼ばれる人形。

悲劇のなか、ワーグナーショパンが流れる。

まるで、1幕の劇を観るような舞台建てです。

カーの影響を指摘する人も多いこの作品。確かに本格らしく、途中では「読者への挑戦状」も挟まれてミステリとしての醍醐味も味わうことができます。
しかし、2度目に読むときはゼヒ、トリックのトンデモや、御手洗の変人ぶりよりも、島田氏の描く、「詩的な死」を楽しんでいただきたいと思います。
五感にうったえる小説、そんな感想が浮かびました。