恩田陸 『球形の季節』

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内容(「BOOK」データベースより)
四つの高校が居並ぶ、東北のある町で奇妙な噂が広がった。「地歴研」のメンバーは、その出所を追跡調査する。やがて噂どおり、一人の女生徒が姿を消した。町なかでは金平糖のおまじないが流行り、生徒たちは新たな噂に身を震わせていた…。何かが起きていた。退屈な日常、管理された学校、眠った町。全てを裁こうとする超越的な力が、いま最後の噂を発信した!新鋭の学園モダンホラー

あまり話題にならない感を受けるこの作品。「六番目の小夜子」の次に刊行された2作目の本である。

少し整理が悪いところを除けば、恩田作品らしい濃密な異世界の描写、背筋を伝わる恐怖など、たいへんワタクシ好みの作品だった。

4月の終りに端を発し、8月31日に終焉を迎えるこの物語。ある地方都市を舞台にひと夏の不可思議な事件を描いたものである。

謎に満ちた都市伝説、
「5月17日、如月山でエンドウさんが宇宙人につれていかれる」

どこからともなく周囲の高校に野火のように広まった噂。
「地歴研」の弘範は、この噂がどのように人々の口から口へ伝わっていったのかを検証しようと、谷津の高校4校の生徒に対してアンケートを実施した。
噂の出所はある男子高の寮を中心に発信されたようだが、結局、出所を特定することはできなかった。
そして、5月17日、遠藤志穂という女子高生が下校途中、失踪してしまう。

昔から谷津に伝わる神隠し「油とり」の伝承。

高校生の内輪から広まっていく都市伝説と土着の伝承の関係は?

眠ったような、古い地方都市「谷津」。平凡で穏やかな時間が流れていたはずの故郷の裏側には、この世ならぬ異形の世界が存在していたのだろうか。

まるで「盗まれた街」のバリエーションのような展開である。失踪して戻ってきた人は皆、人が変ったようになっていた。
思春期の少年少女が通る、一過性の夢想のようなひと夏。
小さな集落のなかで、彼らは行き場のない夢や鬱屈、希望や憤懣をかかえて日々をおくっている。
その集落のなかで意図的に投げ込まれた噂という石は、小さな波紋から大きなさざ波へと変り、思いもよらない現象を呼び起こしていく。

「球形の季節」というタイトルには、何が隠されているのだろうか。
「石」を積む人たち。
少女たちの水晶の玉ような世界。
谷津に隠された「せかいのひみつ」。

恩田陸の構築した世界は、すぐ隣に存在する異世界と、そのはざまに住む少年少女の心象を描き、ノスタルジックでいて不可知の恐怖に支配された世界である。
初期作品ゆえ、焦点のさだまらない不満はあったが、幻想と現実の壁をあっという間に崩してしまう見事さは、やはり彼女ならではの筆力だろう。