仁木悦子 『猫は知っていた』

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内容(「BOOK」データベースより)
奇怪な連続殺人は、仁木雄太郎と悦子の学生兄妹が下宿したばかりの病院で発生した。謎の電

話、秘密の抜け穴、闇にきらめく毒塗りナイフ…。事件ごとに現われるペットの黒猫は何を目

撃したのか?急造名探偵の二人は次第に真相に迫っていく。鮮やかなトリックと論理的な推理

、明快な文体で日本のクリスティ誕生と絶賛され、空前のミステリー・ブームを巻き起こした

江戸川乱歩賞屈指の傑作。

小説としての初めての乱歩賞作品です。(第1回は評論)

昭和32年に発表されたこの「猫は知っていた」。
今読んでも、風俗などの古さを除けば、違和感のない新しさを保った作品でした。

兄妹のにわか探偵が、箱崎病院で起こった不可思議な事件の謎を解いていくのですが、雄太郎・悦子という兄妹は、作者とその兄と同じ名前になっています。

語り手である悦子の目からみた事件はいきいきとして、明快です。

陰惨な殺人も起こるのですが、おどろおどろしい戦前の探偵小説とは一線を画した新しい感覚の推理小説といえるでしょう。

古い防空壕、ナイフに塗られた毒物、失踪した患者。
読者を引き付ける要素も盛りだくさんで、テンポもよく、本当に昭和32年?と驚いてしまいました。

当時は新しかったテクノロジーなどもトリックに使ったりして、意欲的な作品になっています。


作者は4歳の時カリエスに罹患し、ずっと寝たきりの生活を送っていたそうです。
学校にもいけずに兄から家庭教育を受けて、作家にまでなったという経歴です。

なのに作品の中では悦子は、小柄で小太りながらすばしっこく、明るい女性として登場します。元気いっぱいの悦子と知性派のやさしい兄のコンビはとても微笑ましいキャラクターでした。


だいぶ以前にCuttyさんのお薦め本として記憶してた本書ですが、こうして読んでみると今でも充分通用する、傑作ミステリでしたね。