島田荘司 『異邦の騎士』

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内容(「BOOK」データベースより)
失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。 

言わずと知れた島田荘司の名作ミステリです。

記憶をなくした青年が偶然助けられた良子という女性と愛し合うようになり貧しいながらも愛に満ちた暮らしを始める。
このへんはさすがに時代を感じさせるというか、今読むとなにか気恥ずかしいような世界なのです。でもこの青年の憎めない人の良さそうな性格もあってか、読み進むうちに切ないような二人の愛情が染み入るように心に響きはじめます。
そして「御手洗潔占星学教室」という看板にひかれて青年は自分の過去が少しでも解明できればと、その教室を訪ねることとなります。
青年にとって記念すべき出会いですが、この作品では御手洗はほとんど人格破綻1歩手前といったありさま。
微笑ましいを通り越して変人ぶりがもの凄い。
金儲けや駐車違反についての演説はまあ、風変わりとかではなくキ○ガイじみています。
いつ行っても寝ぼけ顔、ボロボロの事務所に、驚くほど不味いコーヒーを入れてくれる。

しかし、この作品の御手洗が私は一番気に入っているのです。
ナイーブな一面も見せ、青年とのギターセッションやジャズ談義がとても魅力的。

この二人の友情がとてもいい。良子との愛情が不安のなかで揺れることも多々あるだけに、感情移入してしまった私は、御手洗と青年の奇妙な掛け合いにほっとしてしまいました。
そして「君、僕だって一人ぼっちだ」
のセリフにはドキッとしました。
こんな素直な感情を吐露した御手洗は他にはなかったのではないでしょうか。

この作品はミステリとしても素晴らしいのですが、青年と御手洗の友情も、また読みどころの一つです。

島田荘司が、占星術殺人事件の前に書いていたらしく、事実上の処女作とも言われています。
いままで読んだ島田作品のなかで(大分最近の作品は未読が多いですが)未だにベスト1が本作品なのです。
もちろんトリックなど凄いと唸る作品はほかにもありますが、「異邦の騎士」は心に残るミステリでありました。


蛇足ですが「摩天楼の殺人」と本作品は年代的に近いような気がするのですが、御手洗のイメージが違いすぎているような・・・。正確にはどちらが先なんでしょう?