佐々木譲 『制服捜査』

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内容(「BOOK」データベースより)
警察官人生二十五年。不祥事をめぐる玉突き人事のあおりで、強行犯係の捜査員から一転、単身赴任の駐在勤務となった巡査部長の川久保。「犯罪発生率、管内最低」の健全な町で、川久保が目撃した荒廃の兆し、些細な出来事。嗅ぎつけた“過去の腐臭”とは…。捜査の第一線に加われない駐在警官の刑事魂が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく、本物の警察小説。 

これは面白かった。
この作家の小説は初めて読むものだったが、横山秀夫ばりの警察小説だった。

北海道警の不祥事が発覚したその後の警察の対応で、北海道警全体が移動の嵐に翻弄された。
犯罪捜査を専門としてきた川久保も、札幌からここ釧路方面志茂別駐在所へ移動させられ25年の警察官人生で初めての駐在勤務となった。
専門性が重視される職場の移動は、各部署での混乱を生んでいった。
ベテランの強行犯係りの刑事が運転免許の更新業務に回されたり、長く地元で駐在勤務してきた信頼されている警察官が、なれない鑑識仕事にたずさわったり、警察内部の矛盾も描かれ読者を引き込んでいく。

川久保も家族を残しての単身赴任を決め志茂別駐在所にやってくるが、なんと初日から地元有力者の訪問を受け無理やり酒を飲まされてしまう。
このコップ一杯の酒を拒めなかったために、後に川久保は後悔をすることになる。

こうして忸怩たる思いをした最初の事件から始まった駐在所の生活が、淡々とした筆致で描かれていく。
「逸脱」
「遺恨」
「割れガラス」
「感知器」
「仮装祭」
5つの短編からなる連作である。
どの章も北海道の片田舎に起きた事件の裏が暴き出されていくところに読み応えがある。
過去の秘密や、覆い隠されていた様々な人間関係が元になって起きる事件。

最後の「仮装祭」は圧巻。
淡々とした語り口が、一転臨場感溢れる筆致となり息も尽かさぬ展開に引き込まれる。
読者は祭りの只中に取り残されたような気持ちを味わう事となり、賑やかなお囃子、人ごみのざわめき、埃っぽい祭りの空気を体験させられる。

あまり期待していなかった地味そうな作品だっただけに、思わぬ拾い物をいたしました。
日本の警察小説は横山秀夫くらいしか面白いと思ったことがなかっただけに、嬉しい収穫でしたね。