飯田譲治 梓河人 『盗作』

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「アナン」を世に送り出したコンビが再び衝撃的な作品を表してくれました。
「盗作」は、「アナン」とは別の物語ですが、芸術と人との関わりを描いた点では、ある意味続編と言えるかもしれません。
懐かしいアナンも少しだけその印象的な姿を見せてくれます。

平凡な女子高生彩子は、ちょっと太めの目立たない生徒だった。
ある雨の午後、夢の中で見た疾走する男の強烈なイメージ。
そのイメージが彩子を捕らえ、彼女は憑かれたように一作の油絵を仕上げた。その絵は見る人全てを魅了し、感動させる不思議な魅力を放っていた。

芸術家のインスピレーションや創作の衝動、そんな眼に見えず計ることもできない未知の力と、その強烈な力を受け取る器としての人間を描いた作品。
栄光から一転、盗作者の汚名を着せられた彩子。
あれは盗作なんかじゃない。何故こんなことが起きるのか?
彩子は過酷な運命のなかに投げ込まれていく。

すごいスピードで読み進みました。ページを繰る手が止まらないまさに一気読みの作品です。
上下巻揃えてから読む事をお薦めします。

しかし、面白い作品を作ってくれましたね。
芸術というちょっと書くのも気恥ずかしい言葉を、易しい文章と分かりやすいエピソードで、一大エンターテイメントに仕立てた作者の手腕に脱帽です。
上下2巻なのに、中だるみもなくぐいぐいと万華鏡のような美の世界へと誘われ、また、汚い嫉妬と中傷のなかに放り込まれ、読者は息つく暇もなく「盗作」の不思議と謎に満ちたストーリーに翻弄されます。

登場人物もくっきりと魅力的に描かれて、主人公やその周りの友人達の輪郭がリアルに伝わってきます。

芸術家が作品を生み出すということが、才能や努力を経てより良いものに昇華していくのか、それともどこか遥か彼方から彗星のようにやってきて、凄い作品だけを残して終わってしまうのか。

私たちは、有名な芸術家は知っていますが、無名の人の作品も多く知り、感動を味わっています。
そして創作の秘密を知るのはだいたい有名な芸術家だけです。無名の作者や、1発屋と呼ばれる作者の声は誰も聞くことができません。
作品がこの世に生まれ、時代や人種さえも超越して人間に感動を与える神秘。
それは一体なんなのか?どこからきたのか?
作者がいるからこそ世に出た作品ですが、絵の具の塊や、音の連なりがどうして人々を感動させるのかは謎のままです。
一昔前は、オリジナリティや著作権などは問題にされていませんでした。
詠み人知らず、本歌取り、小説なども自由に自分の作品に人のものを取り入れたりしていたようです。

作品にサインを入れるようになってから、その価値を有するのは作者のみというルールができました。
しかし、本当の価値はどこにあるのでしょうか。作者のインスピレーションはどこからきたのでしょうか。
そんな、面白い問いかけをこの「盗作」はやっているように思われます。

「アナン」に続くもう一つの美しい寓話、それがこの「盗作」なのではないでしょうか。