島田荘司『御手洗潔のメロディ』

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1998年刊行の御手洗潔シリーズの短編集です。

IgE             EQマガジン 1991年

SIVAD SELIM         島田荘司読本

ボストン幽霊絵画事件     小説現代 1998年

さらば遠い輝き        御手洗さんと石岡さんが行く
 

4編がそれぞれ個性的なメディアで初出しているのでバラエティーに富んだ短編集になっています。
ミステリと呼べるのは「IgE」と「ボストン幽霊絵画事件」の2つだけで、あとは御手洗潔のエピソードとなっています。

   
「IgE」
高名な声楽家のもとに謎めいた美女が現れ彼の心をつかんだまま失踪してしまう。 
同じ頃、川崎区のファミレスSで不思議ないたずらが繰り返されていた。なんと男子トイレの子供用便器だけ何度も壊され持ち去られるという。
二つの謎が指し示す結果を御手洗の推理が解き明かす。

「SIVAD SELIM」
これは事件ではないが石岡の心に深く残ったエピソードとして語られる、御手洗とあるジャズプレーヤーの話。
アメリカから御手洗を訪ねてきた老人。石岡が入れ込んでいたボランティアのコンサートに御手洗とともに現れて神がかりのジャズ演奏をした。
黒人ジャズプレーヤーの正体は。

「ボストン幽霊絵画事件」
ボストン、ハーバード大学の新入生だった御手洗潔の手がけた事件。
友人ビリー・シりオとともに、自動車修理工場の看板にかかわる不思議なイタズラを調べるうちに、御手洗の推理はある殺人事件をあぶりだす。
最後はドラマティックな幕引き。

「さらば遠い輝き」
ドイツ人ジャーナリスト、ハインリッヒはレオナ松崎の古い知り合いだった。そして今はストックホルム在住で、御手洗の助けを得て脳の最新研究に関する連載記事を書いている。
そのハインリッヒのもとに突然レオナから招待の電話がかかってきた。
大ファンのハインリッヒは喜んで海を越えてロスのレオナに会いに出かけていく。

これも事件ではなく御手洗とレオナのエピソードの一つです。
この短編で御手洗は石岡と出合ったときの気持ちを珍しく率直な言葉で述べています。
まるで愛の告白のようなセリフが印象的な作品です。

なかでは「ボストン幽霊絵画事件」が一番雰囲気があって好きですね。
若き日の御手洗の様子がみられるのも楽しいです。
「IgE」も平成2年にしては御手洗の変人ぶりが健在です。やはり名探偵はこれくらい変った人格でないと面白くないですね。

ただ、ミステリとしては「ボストン~」以外はちょっと小粒な感じがありました。
御手洗潔のファン向けの一冊として読めば、今までにない御手洗の姿が見られてお得な作品集でしょう。

「SIVAD SELIM」もギタリスト御手洗の迫真の名演奏が楽しめます。

島田荘司の好短編集でした。