ゼナ・ヘンダースン 『ページをめくれば』

イメージ 1

ゼナ・ヘンダースンは寡作な作家です。

1951年、「おいで、ワゴン!」でデビューしてから83年に65歳でなくなるまでに54編の中短編を残しました。なかでは「ピープルシリーズ」と呼ばれた作品が飛びぬけて評価されています。

日本では「果てしない旅路」「血は異ならず」の2冊が翻訳されました。

さて、この「ページをめくれば」は、ピープルシリーズばかり取り上げられていたヘンダースンのSF作家としての側面を浮かび上がらせてくれる秀作短編集です。

全11編のなかには1作だけ「ピープル」の続編が入っていますが、前出の2冊の選にもれた少し毛色の変った作品といえるでしょう。逆にそういった作品だったからこそ、この短編に載せられても違和感なく溶け込んでいるのが面白いところかもしれません。
SFのファーストコンタクトもの、ホラー風のもの、過去を視てしまう特殊な時間移動もの。今まで知ることの出来なかったヘンダースンのバラエティに富んだ魅力を味わえました。

ほとんど全ての作品に少年や少女が取り上げられ、彼らの不思議な能力、不思議な幻想世界が描かれます。思春期の透き通った感性や不安。それが、大人の教師や親の視点からも複層的に語られます。
 大人が忘れてしまっている驚異、恐怖そして純粋な信じる心。

ヘンダースンの筆が書き上げる世界は、リアリティあるアメリカの田舎の風景です。そして、彼女が実際に経験した教師という立場から見た子供たちの様子もまた、深い観察眼と優しさによって描かれています。
 しかし、しっかりと描かれた田舎の町、素朴な家庭の風景が一つの超常的な出来事によって不思議な驚きに満ちた、活き活きとした世界にひっくり返されるのです。
これが、ヘンダースンの魅力であり、人々を捉えてしまう力なのでしょう。

特に好きな短編は、無邪気な愛らしい異性人とヒトの子供の交流を描いた「小委員会」と、表題作「ページをめくれば」です。
両作品ともにヘンダースンの描く、「子供たち、不思議な力、純粋な喜びに溢れた魔法」に満ちています。

そして、「先生、知ってる?」はヘンダースンの教師だったころの苦く悲しい思い出が昇華したようなお話です。児童の虐待、知的遅れのある子供、その子の口から語られる悲惨な家庭の様子。
 教師の感じる無力さ、痛いような気持ち、もどかしさが切ないラストに繋がっていきます。

長らく埋もれていた作家の作品がこうして「奇想コレクション」というシリーズで読めることは、ファンとしては一つの事件でした。
これを機会に絶版の「血は異ならず」も復刊して欲しいものですね。

ご紹介いただいた、りあむさんにも感謝いたします。