島田壮司 『上高地の切り裂きジャック』

イメージ 1

久し振りに読んだ「御手洗シリーズ」です。

表題作の「~切り裂きジャック」は2000年8月、御手洗はスウェーデンにいて大学の講師でもしているのか、電話とメールでの推理で事件を解決に導いてしまう。

上高地のロケ途中に出演女優が死体で発見された。腹部は切り裂かれて内臓が抜かれ、変わりに石が詰められていた。遺体は暴行を受けていて、DNA鑑定で犯人が割り出される。しかし、当人は犯行時間には横浜の病院にいるアリバイをもっていた。

死体が、移動したかのような複雑な事件。

御手洗は石岡の送った説明とデータで、犯人を割り出すことができるのか。

トリック、登場人物の魅力、ともどもパッとしない作品という感じを受けてしまいました。
御手洗の参加が、電話だけというのは関係なく、「被害者、加害者たちが薄っぺらな人生を、汚い手段で守ろうとする、浅ましい事件」という感想をもったからです。

「山手の幽霊」のほうが、「御手洗シリーズ」らしく、謎もトリックもいかにも島田荘司らしさが出ていたと思います。

1990年4月のこと、根岸線の山手~石川町駅の間にある山手トンネルの上に建つ住宅で事件があった。
魑魅魍魎が跋扈する土地柄から、呪われた家との噂がたっている一軒家だった。

代々住む人が癌に侵されたり、難病に罹る呪われた家、そこの地下室は核シェルターにもなるステンレス製の函のような物だ。

新しくこの家を買った正木が、異臭に気付き地下室を開けてみるとそこには前の持ち主がミイラのようになって餓死していた。
正木は購入直後に地下室を釘付けしてだれも入れないようにしていたのだ。もちろん、がらんとした空間に誰もいない事を確認していた。

元の持ち主は、何故、どうやって入り込み餓死にいたったのだろうか。 


島田自身が、一瞬電車から見えた山手のトンネルに着想をえて、書き上げた中篇と言っています。

根岸線の運転手に降りかかった恐ろしい怪異と、不可能なシェルターの中の死が御手洗の見事な推理によって解き明かされていきます。

トリックを解明する過程もスリリングで、なかなか楽しめる島田氏らしい作品だと思います。