(4)Mr.MHG LAST HUNT

第四章 ジャックと仲間たちvsゲリョス



ほどなく森と丘のベースキャンプが見えてきた。一番前を歩いていたリックという若者が、突然すっと

んきょうな声をあげた。

「あれ!誰かキャンプに人がいるぞ!」

「そんなバカな・・・。ここは、わしらが独占して受注した狩場のはず・・。」ジャックたちも驚きの

色を隠せない。何十年ものハンター生活のなかで、狩場に他人がいることは初めてであった。

「おい、あんた誰だ?ここで何をしてる!」少しいらだった口調で声をかけると、その人物はくるり

振り向いた。

「ギルドナイト!」全員が驚きの叫びをあげた。ギルドナイトとはギルド直属のハンターである。

飛龍も狩るが、真の目的は掟を破ったハンターの粛清にあると謂われていた。赤いベストは、法律を

破ったハンターの粛清を、黒いベストはギルドに逆らったハンターの暗殺を担当するとささやかれて

いた。そしてここにいたのは、黒いベストを着込んだギルドナイトである!

「おはよう、諸君。やあ、ジャック久しぶりだなあ。」ギルドナイトは微笑みながら、ジャックを見つ

めた。その視線は冷え冷えとして、まったく笑ってはいない。

「もしかして、お前、ヴィクトールなのか?」ジャックは黒いアイマスクの下に隠された表情をよく

見ようと眼を細めて言った。

「そうだ、よく分かったな。もう15年くらい会ってなかったが・・。」ヴィクトールと呼ばれた男は

気障な仕草で、付いてもいない袖口の糸くずを払いながら、優雅にアイテムボックスに腰を下ろした。

「なぜお前がここにいるんじゃ?ここは、受注した狩場じゃ。とっとと出て行ってもらおうか。」

温厚なジャックの表情が一転けわしいものに変わった。どうやら15年前の二人の過去は、あまり

楽しいものではなかったようである。ヴィクトールは両手をゆっくり挙げると

「わかったよ、歓迎されてないことは・・。だが、私もギルドの命を受けてここに来てるんだ。この

エストは例外が適用されて、6人も余分に狩場に入れることになっている。そいつらが、約束を破って

狩りに参加しないかを見張りに来たんだよ。」

と言った。若者達の顔色がさっと変わった。

「なんて失礼なんだ!ギルドはそんなに俺たちハンターが信じられないってのか?」血の気の多い何人

かがギルドナイトにつめよった。

「まあまて。よかろう、不正はしないから好きなように見ていくがいい。だが、このことは

ギルドマスターのあずかり知る所なのだろうな?」

ジャックの鋭い眼光にヴィクトールは一瞬たじろいだが、すぐに胸をそらし

「もちろんだ。納得したら出発しようじゃないか。」と言った。

若者達は、納得いかないようすだったがジャックは

「さあ、支給品をとらせてもらうぞ」と、アイテムボックスに乗っていたヴィクトールの尻を邪険に

どけた。そして

「ハンターの命を守ったり、狩りの助けになる品物が入ったボックスじゃ、粗末に扱ったり尻を乗せたり

するもんじゃないぞ」と若者達に向かって言った。

 面子をつぶされた態のヴィクトールは、居心地悪そうにしている。それにかまわず、ジャックらは

アイテムを4人で分け合い袋に詰めると、目的地めざして出発した。


 気持ちの良い日差しが丘に照りつけ、一行はヴィクトールの存在さえなければピクニック気分で歩みを

進められたことだったろう。列の後ろからむっつりと押し黙ってついてくるギルドナイトの影は、皆に

緊張を強いていた。草食竜アプトノスがのんびり草を食む様子も、ケルビたちの互いを呼び合う鳴き声も

楽しむことなく、ハンターたちは黙々とゲリョスのいるエリア3に向かって行った。

「よし!このあたりでいいだろう。荷物を降ろしたらゲリョスを待つだけじゃ」ケンジの合図で皆は

荷をほどき、比較的安全に思える場所へ集まった。

「じゃあ、一人ずつ技をひろうしてもらおうか。ハルは一応支援ガンナーの見本ということで、援護を

してもらう。まずはボンド、ハンマーの実技演習からお願いしよう。」ケンジの支持でボンドとハルが

進み出た。

「おう!みんな!よっく見とけよ、ハンマーのタメ攻撃のポイントをな!」とボンドがいえば

「わしのボウガンさばきを、よっく見とくんじゃぞ!支援の極意をみせてやるわい!」ハルも負けて

いない。確かに太い腕でぶんぶん振り回すハンマーは、若者達も後ずさりするほどの迫力だ。

「ククク・・・ディスティハーダの弾は痛いぞ、とさか狙いでいくか・・・」

 ハルもジャキンと徹甲榴弾を装填し、準備万端ととのった。

 そこへ、キュルキュルと翼で風を切る音が・・。ゲリョスが舞い降りてきたのだ。ハルは素早く木立の

影に移動した。

 ボンドは、着陸地点真下でハンマーを振りかぶりタメにはいる。

 ゲリョスの翼が風圧を巻き起こし、ボンドのミラバルカン装備がはためいた。が、ボンド本人は、ピク

リとも影響を受けずに着地寸前の毒怪鳥の腹めがけてハンマーを叩きつけた。

「すかっ」

「・・・・」

 みごとに空をきった溶解鎚【煉獄】は火を噴くこともなくボンドを振り回し、尻餅をつかせた。

「やばい、ゲリョスが蹴りをかますぞ!」若者達が叫んだ。

 そこへハルの撃った徹甲榴弾が炸裂し、ボンドはさらに遠くへと弾き飛ばされた。ゲリョスの頭がぐる

りとハルの方へ向けられた。ギョエエ~と叫びながら突進する。その先にはまごまごと弾を装填しなおし

ているハルがいた。

「ああっ!!!!」悲鳴に似た声があがり、ハルの身体は怪鳥の蹴りを受け宙を舞った。

「皆んな!助けよう!殺されるぞ!!」ジャックとケンジが飛び出した。

 若者達も、武器を抜き放ち今にも飛び出す体制である。

「オホン、オホン・・・」ギルドナイトの咳払いで、若者達はわれに返って武器をしまった。

「ケンジ!ゲリョスの尻尾を狙えるか?!」ジャックが走りながら叫んだ。

「わからん!わしもしばらく双剣を握ってない!!」ケンジもどなりかえす。

 ハルはゴロゴロ転がってかろうじて怪鳥の攻撃をかわしているが、無様な姿には違いない。やっと、

ジャックが追いつきゲリョスめがけて槍を突き出した。

 蒼い槍がゲリョスの腹をえぐった瞬間、激烈な炎があがった。蒼き火竜の素材から造られた槍の恐るべ

き属性攻撃である。ゲリョスは痛みに怒り狂い、パニックになって走りはじめた。毒の液を吐き散らしな

がら、地面を揺るがし凄いスピードで走る。やっと立ち上がったボンドが跳ね飛ばされ、ケンジもかろう

じて身をなげるようにしてギリギリで回避した。そしてゲリョスは、丘の端までいくと再び翼を広げて

飛び立って行った。