「僧正殺人事件」について

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この作品が世に出たのは1929年、A.クリスティの「そして誰もいなくなった」に先んずること10年

であります。有名なマザー・グースの童謡にのせて、恐ろしい連続殺人事件がおこります。

無邪気な童謡と冷酷な連続殺人を融合した作者ヴァン・ダインの秀逸なアイデアは今もまだ、後続の

作家たちが描き続けていることを見れば、当時としてはいかに衝撃的だったかがわかります。


舞台はニューヨ-ク、有名な数学者ディラード教授邸で弓の名手が矢を射られて殺されます。彼の名前

はコック・ロビン。誰もが幼い頃口ずさんだマザー・グースの「だあれがころした コック・ロビン

それはわたしとスズメがいった・・・」を思い出し戦慄します。次の犠牲者はまたもや、マザー・グース

にそっくりな状況で公園で頭を撃たれて殺されます。

 主人公の探偵ファイロ・ヴァンスは、警察が逮捕した男はこの犯人像にふさわしくないと推理して

真犯人を探しますが、またも殺人が起きてしまいます。そして、事件の起こるたびに新聞社には

「僧正」のサインが入った犯人からの手紙が送られ・・・。


ヴァン・ダインの代表作である本書はマザーグース、高等数学、チェスそして殺人と様々なモチーフ

がちりばめられ、知的なゲームに似た面白に満ちています。ただ、ファイロ・ヴァンスの

ペダントリーに満ちた長話しが鼻につく人も多いと思います。高等数学についての説明がえんえん

何ページにも及び、(これが私にはすごく面白かったのですが)ストーリーが進まないことが、ヴァン・

ダインはかったるい、という評価をされてしまうのでしょう。

しかし、登場人物が数学者、チェスの名手など、知的レベルは高いけど、変人で偏屈者だったりして

なかなか味のある、曲者ぞろいです。犯人あての面白さももちろんありますが、私はこの本を何回

か読み返しています。「僧正」が描く世界がそれだけ魅力的だからではないでしょうか。