小路幸也 『怪獣の夏 はるかな星へ』

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西の空に、明けの明星が輝く頃、一つの光が宇宙へ飛んで行く。…それが、僕なんだよ!


1970年夏、子供たちが体験する奇妙な出来事。謎の機械人間や怪獣が次々と町を襲う。そして公害に汚れた地球を救うのはだれか?



小路さん初の怪獣小説です。

ジュブナイルの体裁をとった小路流の文明批評とも、アノ楽しかったTVドラマへのオマージュともとれる本書ですが、また小路さんの引き出しがふえました。

物語は企業城下町に暮らす小学校5年生の4人の子どもたちを主人公に進んでいきます。




抜群に絵が上手く、思慮深いナナロー、運動神経抜群でガキ大将のマット、オリンピック水泳選手を目指すユリコ、読書が好きで、市立図書館の大人の本まで読みまくっている大人しいアキコ。

4人ともに人並み外れた才能の持ち主だが、それゆえ学校ではちょっと浮いた存在だ。尊敬とやっかみの混じった視線は、自然と4人をより強く結びつけていく。

1970年の夏休み。
製紙会社の工場からは、毎日煙があがり、機械の稼働音が響き、川には何ヶ所もの排水溝から汚染水が流れ続けていた。
4人は日常となったそんな風景、音、匂いのなかで、子供らしく釣りをしたり、石炭の山に登ったりして夏の日々を満喫していた。

ひょんなことから、ユリコの弟が下水道の横穴に怪獣の絵が描かれているのを発見する。それは見事な出来栄えで、絵の上手いナナローも美大生のハヤトさんも、写真屋さんのキリシマさんも驚くような作品だった。
同じ日に、4人はあと2ヶ所も同じ作者とみられる怪獣の絵を発見する。
どれも、おいそれとは人が立ち入れないような危険な場所に描かれていた。
不思議な怪獣の絵の謎を調べるうちに、さらに不思議な光や振動といった現象が街に現れていく。

誰も気づかないうちに街には危険が迫っていた。
機械人間の襲来や、見えない巨大な怪物が街を歩き回っている。

「君たちしか街を救える人はいない!」ハヤトさんの言葉に子どもたちの勇気が奮い起される。

もはや戦後ではないと言われた高度成長期。
戦争体験者がまだ普通に生活し、戦後の焼け野原で遊んだ記憶のある子どもたちが企業戦士となって、発展していく日本からは、こぼれ落ちていく人々もまた置き去りにされようとしていた。戦後の苦難から立ち上がった日本に公害という敵がまた襲いかかる。

そんな時代の影と、子どもの心という光を対決させる。「光の戦士」の物語。




ストーリーはちょっと「空を見上げる古い歌を口ずさむ」を思わせるものになってますが、相変わらず子どもの描き方が活き活きしていて、また当時の子どもっぽいのもリアリティがあってよかったです。

途中でちょっとひっかかる部分はあるものの、楽しく読了しました。私もアノシリーズを楽しみに観た世代ですので、いろいろ名前やらセリフやら、思いだしながら小ネタに笑ったり。

もうセピア色に変色した子どものころの写真を見るように、思い出のなかに消えそうになっていたアノシリーズを、こんなに鮮やかによみがえらせてくれてありがとう。
小路さんに感謝です^^l