キャサリン・ネヴィル 『8(エイト)』


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内容(「BOOK」データベースより)

革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランス。存亡の危機にたつ修道院では、宇宙を動かすほどの力を秘めているという伝説のチェス・セット「モングラン・サーヴィス」を守るため、修道女たちが駒を手に旅にでた。世界じゅうに散逸した駒を求め、時を超えた壮絶な争奪戦が繰り広げられる!壮大かつスリリングな冒険ファンタジー




こんなに面白いのになぜか評判にならなかった本書。自信を持ってお薦めできる作品なのですが、どうしてなのでしょう?

モングラン・サーヴィスという伝説のチェスセットをめぐり、現代と200年の時を超えてフランス革命真っ只中のふたつの時代を行き来しながら物語は進みます。

革命の手は各地の教会の財産没収という暴挙となりモングラン修道院にも迫っていました。修道院長は1000年のあいだ封印していた呪われたチェスサーヴィスが、悪の手に落ちることを避けるため、見習い修道女のヴァランティーヌとミレーユに駒を託し、パリへと逃がすことにしました。彼らの後見人である画家、ジャン・ルイダヴィッドのもとへ。
物語はフランス革命の動乱から、コルシカ、アルジェリア、サハラ、と世界をまたにかけ広がっていくのです。

そもそも8世紀のシャルルマーニュ大帝までさかのぼるこのチェスサーヴィスは、アラビア人が創りあげた世にも美しく豪華な芸術品でした。1つの駒が15センチほどもあり、ボードは1メートル四方もある大きなものでした。升目は金と銀で精緻な細工がほどこされ、インドやペルシャの影響も見られ、駒も金銀と大ぶりなカットされない宝石がちりばめられています。
しかしこのチェスサーヴィスの本当の価値はその中に秘められたある法則、秘儀でした。それこそが、革命家が欲しがっているものにほかなりません。
そのパワーのためか、呪われた伝説を持つこのチェスサーヴィスは、ここモングランの地に1000年のあいだ封印されていたのです。




フランス革命の立役者たちが、まるで引き寄せられるように2人の修道女とかかわっていくところも読みどころですね。
政治家、タレーラン、マラー、ロベスピエールなどなど。
芸術家、ダヴィッド、ルソー、ワーズワース、バッハ。
そのほか、エカチェリーナ帝、ナポレオン、とまあ、壮大な歴史伝奇ものの側面も。

そして、エイトの謎。
絡み合う二匹の蛇が8の形を描いている象徴的な絵が描かれたチェスセットを包む布。
ヘルメスの杖の意匠、絡み合う蛇(錬金術
遺伝子の二重螺旋。
横にすると無限大記号。


これでもかとてんこ盛りになる謎。そしてそれを追いかける主人公にせまる魔の手。
伝奇もの、SF、ミステリ、歴史。いろいろな要素を取り込みながら、手に汗握るサスペンスもあり。モングランサーヴィスに秘められた宇宙をも動かす謎とは。

現代のほうは(1988年の作品です)ニューヨークに住むコンピューター技師のキャサリンが主人公。
舞台は1972年、まだOPECが世界の石油を牛耳ることが明らかになる前夜、といったところでしょうか。エネルギー関係のプログラムの仕事をするためアルジェリアに飛ぶことになったキャリアウーマンのキャサリン
彼女の周りにいるひと癖もふた癖もある知人友人。その中の一人が、アルジェにあるという「モングランサーヴィス」を探して手に入れてほしいと言いだしたのだ。
そこから、現代のチェスサーヴィスの謎の探索と冒険が始まっていきます。
チェスの名人モーデカイ、その孫でチェスプレーヤーの変人リリー、犬のキャリオカなどの登場人物が、魅力的な本書の駒としてゲームはすすみます。
そう、これはチェスのゲームであり、ミステリであり、冒険ファンタジーなのです。


主人公キャサリン作者のキャサリン・ネヴィルの分身のようにもとれますが、作者もまたスーパーウーマンで、IT関係、金融関係で重役を務め、画家、写真家、モデルとしても活躍するという凄い方です。