大倉 崇裕 『七度狐』

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内容(「BOOK」データベースより)
静岡に行ってくれないかな―北海道出張中の牧編集長から電話を受け、緑は単身杵槌村へ取材に赴く。ここで落語の名跡の後継者を決める口演会が開かれるのである。ところが到着早々村は豪雨で孤立無援になり、関係者一同の緊張はいやが上にも高まる。やがて後継者候補が一人ずつ見立て殺人の犠牲に…。あらゆる事象が真相に奉仕する全き本格のテイスト、著者初長編の傑作ミステリ。

大倉崇裕氏の作品は3冊目です。「警官倶楽部」「福家警部の挨拶」に次ぐ本書。
なんとも引き出しの多い作家ですね。この他にも山岳小説とか「白戸修シリーズ」とかも興味をひかれます。今回はbataiyuさんが紹介されていたのがきっかけでした。
結果、大当たり^^v
あまり落語や落語関係の小説って読んだことがないのですが、この作品は落語の面白さより芸の深さや怖さを描いたところが楽しめました。
bataiyuさん、ありがとうございました。


粗筋にもあるように「雪の山荘」のアレンジで、豪雨で孤立した集落で起きた連続殺人。それも「七度狐」の演目に出てくる「だまし」に見立てた「見立て殺人」ものです。
著者の初めての長編本格推理ものらしいですが、なかなか見事な構成でした。「クローズド・サークル」「見立て」に加えて、名探偵が乗りこめない状況で、ワトスン役が奮闘し途中までは電話で情報をやりとりする「安楽椅子探偵」のアレンジにもなっています。
いろいろな本格テイストをこれでもかと盛り込みながら、落語の芸やそれにまつわる人々の妄執もきっちり描いて、かなりの力作でした。

序盤での謎のちりばめかたも、パターンが様々で、こんなに謎をばらまいて回収は大丈夫かな?と思わせますが、時代を超える謎なんかもしっかり回収して、お見事です。



以下、ちょっとネタばれです。























一番感心したのが、先代古秋と百目師匠の入れ替わりのトリック。
夢風さんのところは何となく怪しんでたのですが、こちらはさっぱり見当つきませんでしたね。
あの骨は先代だとばかり思って騙されました。
このへんもタイトルに掛けた、作者の遊び心が出ていて素敵です。
ラストに死んだはずの師匠がちらっと出てくるのも、ぞっとするところで良かったです^^;




















この作品、「三人目の幽霊」という連作短編の続編らしく、こちらはデビュー作ということです。
落語専門誌の新米編集者・間宮緑とぐうたら編集長の牧大路(まきおおみち)のコンビが、鮮やかに事件を解決する、ちょっと軽めなミステリの感じがいたします。
こちらも読みたくなってしまいますね。

記事にはしてませんでしたが「福家シリーズ」も好きな作品です。こちらは「刑事コロンボ」というTVシリーズを意識した倒叙もので、大倉さんのコロンボへのオマージュがいっぱいです。
ホント、どれだけ引き出しがあるんでしょう?