貴志祐介 『悪の教典』

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爽やかで知的で好青年の高校教師蓮見。
アメリカの大学を出て英語の教師として勤めているが、女子生徒に絶大な人気がある。

しかし蓮見はその奥に恐ろしいサイコキラーとしての顔を秘めていた。

久しぶりの貴志さんの新作。
↑の粗筋というか設定を読めばだいたい予想がつく、一本道の怒涛のストーリーでした。

まったく良心の存在しない捕食者、そんな人の皮を被ったケダモノが、爽やかでハンサムで知的な英語教師だったらどうでしょう。
高校という閉鎖された環境で、イジメや裏サイト、問題教師、モンスターペアレントなど様々な要素を盛り込んだ作品ですが、今回はあまり乗れませんでした。面白くないわけじゃない。もうグイグイページをめくらされて、あっと言う間に分厚い上下巻を読み終えていたのですが。
新世界より」などに比べて、構成も単調で、高校生や教師たちの描き方が通り一遍な感じがぬぐえません。なにより貴志さんの構築する世界が、薄っぺらく思えてしまったのです。蓮見というサイコキラー(もう生まれつき殺人者としか思えない鬼畜な男)が主人公なのですが、よかったのはフギンとムニンと蓮見が名付けたカラスの存在くらいでした。週刊誌や新聞でいつか読んだことがあるようなエピソードがつなぎ合わさって出来あがっているような、そんな不満な読後感を持ってしまったのです。

それもこれも今までの作品が素晴らしすぎたのが原因なのですが。
今回の作品はまるで湊かなえの「告白」じゃないけど、日常のなかの悪意を拡大再生産してスプラッタの風味を付けてみました、といったちょっと軽い作品に仕上がってます。
もちろん読んでいる間は夢中になっているのですが、途中から「あれ?このまま突っ走るのかしら・・・」という疑問がわいてきて。
そう、結果そのまま突っ走ってしまいました(笑)

う~ん、ちょっと今回は肩透かしをくらった感じでしたか。
今までのレベルがあまりにも高すぎたとはいえ「悪の教典」はもう一工夫ほしかった、と思ってしまいました。
貴志さんのファンの方には申し訳ない辛口記事になってしまいましたが、正直な感想なのでご勘弁を。

まだまだ期待できる書き手だと信じているので、次回作もちゃんと楽しみにしてます。