フリーマン・ウィルス・クロフツ 『樽』

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内容(「BOOK」データベースより)
ロンドンの波止場に揚げられたワイン樽から覗いていたのは、金貨と人間の手だった!事件の予感に荷揚げ作業員が右往左往するなか、樽は忽然と消え失せる。通報を受けたロンドン警視庁のバーンリー警部は樽の行方を追うが、それは英仏海峡を横断する大掛かりなアリバイ捜査の発端にすぎなかった…ミステリ史上に燦然と輝き、江戸川乱歩をして瞠目せしめた傑作本格。名探偵によるアリバイ崩しの金字塔が、新訳で甦る。
 
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
F・W・クロフツ
1879年ダブリン生まれ。1896年から1929年まで、鉄道技師として働く。19年に大病を患い、長期療養中の慰みとして執筆した『樽』が、翌20年にコリンズ社から刊行され作家デビューを果たす。24年に発表した『フレンチ警部最大の事件』から、遺作となった、57年の『関税品はありませんか?』まで、シリーズ・キャラクター、フレンチ警部ものの長篇29作を上梓した。57年に没するまで“アリバイ崩し”をテーマにした作品を中心に、33作の長篇と多数の短篇を物す

加賀山 卓朗
1962年生、1985年東京大学法学部卒、英米文学翻訳家。

Amazonより

一言メッセージに書いている挫折本とはこれでした。
本当に過去何回か挑戦して毎回序盤数ページで敗退を繰り返し・・・・。
ついに新訳のおかげで読みきることができました~~パチパチパチ!


で、読了して思ったのは「面白いじゃん、これ!」ってこと^^;;

なんで今まで読めなかったのか。翻訳ってつくづく大事だなあと思いましたね。加賀山 卓朗さん、ありがとう。

とにかく、地味、テンポが遅い、つまらない、とさんざんなクロフツですが、この作品に関しては、地道な捜査や人間味のある登場人物が好感でした。
まあ、現代の作品にくらべれば、派手さはありませんが、アリバイ崩しの部分はなかなか読ませました。

やはりなんと言っても、ロンドンで起こった事件の捜査がパリやブリュッセルまで広がっていくスケールの大きさが、このミステリの価値を高めています。
大陸と英国を結ぶ船、パリからブリュッセルに至る鉄道の旅。
1920年発行という時代の雰囲気もまた読みどころです。

捜査に関わる警部、弁護士、探偵。
それぞれが、手間を惜しまず、優雅にかつ勤勉に働く様が、とても興味深く描かれてました。
夜中まで会議したり、捜査したりしながら、優雅にカフェやレストランで食事を楽しんだり。移動方法もまた、荷馬車で荷物を運び、人間はタクシーを利用する、など時代の変革が感じられて面白かった。

もちろんミステリとしての先駆的役割は知られている通りです。
この「樽」から、事実を一つ一つ検証し、推理を積み上げていく緻密なミステリが始まったのです。
ネタばれになるので詳しくは書けませんが、死体が詰められた樽の移動はどうだったのか、真犯人のアリバイが、徐々に崩れていくところ。
このへんは、後続のミステリ作家がひとつの基準として、お手本にしたものではないでしょうか。
しかしこの本、けっこうなリーダビリティでありまして、もしかして加賀山さんの功績って凄いかも。

長年の課題、古典ミステリの傑作が、こんなにも面白く読めて本日は大満足ですぞ^^;

あ、探偵君は1/5あたりでやっと登場しました。さえない風貌のオッサンです(苦笑)