今野敏 『慎治』

イメージ 1

中学2年の慎治はクラスメートの小乃木将太ら3人からいじめの標的にされていた。
こづかいを奪われ、殴られたり、こづかれたりする日々。ついには万引きを強要されてしまう。
家庭では「音楽もスポーツも手遅れなのだから、せめて高校くらいはいい学校にいってくれ」と言われ、安らぐこともできない。
どこにも逃げ場のない、救いのない状況だった。ついに慎治は自殺まで真剣に考えはじめる。

と、ここまではよくある展開なのだが、本書はここからが面白い。逃げ場のない追い込まれた状況から慎治がどうやって抜け出し、再生するのか。
慎治を救ったもの、それはガンダムだった。

ガンダムの模型やフルスクラッチという高度な技法。
モデラーと呼ばれる模型製作者の世界。
今まで知らなかった魅力的なオタクの世界が広がっていく。

ガンダムの世界観。オフィシャルな年表。ジオン公国

TVのロボットアニメでしかなかったガンダムワールドが、思わぬ広大さを見せて慎治を夢中にさせた。
プラモデルを改造し手をかけることによって、自分の作品に変化していく楽しさ。

このへんの描写は、まったくガンダムモデラーに無知な私でも思わずひきこまれてしまう詳細なものだ。作者の今野氏はガンダムの権威らしく、その世界観を語る筆致の熱さはまさに圧巻。
アムロシャアくらいしか知らなかったが、知らぬ間に08小隊やらラグランジュ・ポイントなどという用語を使ってみたくなっている(単純^^;)
モデラー仲間や、ガンダム仲間にも、得意ジャンルがあったりするのが、いかにもマニアックだ

慎治がガンダムマニアの担任教師によって、八方塞りの状況から抜け出し、打ち込める世界を見つけることによって救われていく。まあ、現実はこんな簡単にはいかないかもしれないが、このオタク教師の言葉には、やはり力がある。
弱弱しい少年が、1歩1歩大人の男へと成長していく過程は、爽やかであり、わくわくさせられる。
特に、いじめる側の大人びた少年の卑劣さが対比されて、真の男、大人とはなにかがくっきりと浮かび上がってくる。

なにか夢中になるものを持ってる人ならば、この「慎治」には強く共感できるに違いない。