初野晴 『退出ゲーム』

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内容(「BOOK」データベースより)
穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに―。化学部から盗まれた劇薬の行方を追う「結晶泥棒」、六面全部が白いルービックキューブの謎に迫る「クロスキューブ」、演劇部と吹奏学部の即興劇対決「退出ゲーム」など、高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。 

初野さん、3冊目です。
「1/2の騎士」と「水の時計」はファンジックで幻想的な作品でしたが、本書はど真ん中、青春ミステリーです。しかし、この作者のこと、普通の青春ミステリーとは一味違ってました。

4編の連作短編からなるのですが、謎のとっかかりは狭い高校生活から始まって、だんだん複雑な様相を帯びてきます。一番単純なのが「結晶泥棒」。これはハルタとチカの顔見世といったかんじ。
しかし、「クロスキューブ」は真っ白なルービック・キューブの謎が、禅問答も交えて解決に向かったり、「退出ゲーム」では抱腹絶倒しながら、現代中国の問題まで謎が広げられていきます。
ラストの「エレファンツ・ブレス」では「オモイデマクラ」という怪しげな発明品から、ひょうたんから駒のように、深くて怖ろしい謎が導かれたり・・・。

ちょっと構成に無理があるような部分もありましたが、登場してくる高校生たちの活き活きとした存在感は一番の魅力です。特に、脇役が際立ってます。一話でいなくなるのが惜しいという、存在感のある演劇部の名越。絶対作者、遊んでるだろうという演劇部の看板女優マヤ。(家はラーメン屋で、今オオカミに育てられた少女の役になりきっている(笑))
超絶俺さまキャラの生徒会長日野原。双子の発明家萩本兄弟。中学生なのに行動力抜群の後藤さん。
シリーズ化して、また彼らに会いたいと、強烈に思ってしまうハジケタ脇役たちがひしめいてます。

この作品は1年生の時の思い出をチカが綴ったという設定なので、今後、2年、3年と続編が出るのではないでしょうか。
切なくて、幻想的な初野さんも好きですが、この突っ込みキャラ、チカが主役の抱腹絶倒短編集も、また楽しい、初野さんの一面です。