R・D・ウィングフィールド 『クリスマスのフロスト』

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内容(「BOOK」データベースより)
ロンドンから70マイル。ここ田舎町のデントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物…。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げる一大奮闘。抜群の構成力と不敵な笑いのセンスが冴える、注目の第一弾。 

随分まえから、フロストシリーズの面白さを小耳にはさんでいた。しかし、ハードボイルドが芯から合わない体質の私は、この「ダメで、だらしないが魅力的」というフロストの人物に懐疑を感じていたのだ。
例の「アノ」タイプだったら読めないなあ、というわけである。
「女に逃げられ、酒におぼれ、コートの襟を立てて街を歩く、アノタイプ」である。

しかし、杞憂にすぎなかった。我がフロスト警部は「ソレ」ではなかった。ぜんぜん違う本物のダメ警部であったのだ。

趣味の悪いエビ茶のマフラー、よれよれのコートに背広。いつ磨いたのか分からないドタ靴。
下品なジョーク(ほとんど下ネタ)を飛ばし、どこでも煙草を吸い、吸殻を窓から捨てる、人のオフィスのトレーに押しつぶす。
本当にだらしなくて迷惑なオヤジだった。

このだらしなくて、下品なダメオヤジの元に、間違って配属されてくる新人の刑事クライヴ。
真面目で上昇志向が強く、きちんとしたスーツを着たこの新人。実は警察長官の甥という、やんごとなき血筋なのだ。
しかし、クライヴ君が今回の犠牲者その1である。
妻に先立たれたフロストは、一人暮らしの家に帰るより捜査しているほうがましという、ワーカホリックである。初日から引きずりまわされ、真夜中になってもまだ帰宅できない。
可愛い婦警さんの恋人が待つ我が家に戻れるのはいつ?

クライヴの災難は、このシリーズのお約束である。(2巻からは別のパートナーが犠牲者になる)


この2人組みが活躍する警察署もまた、個性的な面々が揃っていて楽しい。俗物署長のマレット。冷徹でカミソリのような切れ者アレン警部。お色気担当の婦警ヘイゼル。

田舎町デントンに起こる数々の事件。
8歳の少女の行方不明事件を始まりに、強盗、詐欺、白骨死体の発見、等等。

降りかかる事件のなかをフロストはエビ茶のマフラーをなびかせて疾走する。迷惑そうなクライヴをお供に。
捜査も勘に頼ったり、家宅捜査は面倒なので、クライヴにまかせて自分は煙草を吸ってたり。いいかげんなこと、この上ないのだが、不思議なことに何故か事件の鍵を見つけて解決に導いてしまう。
といっても、作者の力量なのだろう、ご都合主義に陥らずに犯人を見つけ出すところなど、構成のうまさとともに感心するところだ。

思わず笑いがこみあげるフロストの言動と悲惨な事件の対比が、ぐいぐいと引っ張りこまれる要因か。
ぶ厚い文庫なのだが、読み進むうちに、まだこんなに楽しめる、と残りのページを見てにんまりしてしまうほどの面白さだった。
もっともっと長くていい、むしろ大歓迎とは新作「フロスト気質」を読んだbeckさんの言葉だが、本当にその通りであった。

いいかげんで、無責任で下品な主人公、脱力系オヤジのフロスト。
まだ、1巻目でよかった。あと3巻もあるもんね。

(決して傍にいてほしくはないが、)フロスト警部の大ファンになってしまった。