北村薫 『野球の国のアリス』

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やるしかない!アリスはそう思ったんだ……。

野球が大好きな少女アリス。彼女は、ただ野球を見て応援するだけではなく、少年野球チーム「ジャガーズ」の頼れるピッチャー、つまりエースだった。桜の花が満開となったある日のこと。半年前、野球の物語を書くために「ジャガーズ」を取材しに来た小説家が、アリスに偶然再会する。アリスは小学校卒業と同時に野球をやめてしまったようだ。しかしアリスは、顔を輝かせながら、不思議な話を語りはじめた。「昨日までわたし、おかしなところで投げていたんですよ。」……。

ミステリーランドの最新刊、北村薫の「アリス」は、鏡の国の不思議な野球少女だった。

ルイス・キャロルのアリスを下敷きにして、鏡の国のおかしな野球大会を変えようとするアリスの物語。

登場する人達がみな、とてもいい子たちだった。

ピッチャーのアリスはとにかく野球が命の素敵な女の子だし、天才五堂はセクハラっぽいヤナ奴かと思ったら、なかなか、男気のあるいい奴だったり。
なんと言っても胸が苦しくなるほどいい奴、兵頭クンが最高だった。

「パワー充填!」
そのシーンに詰った様々な思い。
これが最後のバッテリーとしての試合だ。
アリスの投球を受ける最後の機会だという思い。
アリス、安西も五堂もいいけど、兵頭だって最高の相棒じゃないか!なんて言葉をかけたくなるほど、彼らの心意気は素敵だった。

野球というスポーツを通して、アリスもチームのメンバーも、勝負、信頼、友情という大事なことを、一つ一つ会話していくようだ。
それは、試合が進むにつれて相手の敵方であるチームメイトたちにも伝わっていく。

思春期の入り口に立ち止まって、女の子アリスが少女アリスになっていく、その瞬間1っ歩手前。
最後の野球、最後のピッチャー。
鏡の国での不思議な体験が、アリスだけでなく五堂も兵頭も巻き込んで、一瞬の夢を紡ぎだした。

ああ、青春っていいなあ。
なんて、当たり前のことを深く感動して思わせてくれる。
北村マジックはミステリーランドでも、しっかり酔わせてくれる。