エリス・ピーターズ 『聖女の遺骨求む 修道士カドフェルシリーズ1』

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12世紀、イングランドはシュロプシャ、シュールズべり大修道院の修道士達は、副院長ロバートを先頭にウェールズに向かった。教会の権威を高めるために、寒村の教会に残された聖女の遺骨を引き取るためだった。ところが拙速に進めようとする修道士達と、村人達は一触即発の状態。そんななか、反対派の急先鋒で地主のリシャートが殺害されて・・・。


中世イングランドを舞台にした歴史小説とミステリと人間ドラマが楽しめる、1冊で3度も美味しい作品です。

シュールズべり修道院修道士カドフェルは薬草学に詳しく、実際薬草園を作り、品種改良や、クスリ作りをするヒラの修道士です。
若い頃は十字軍に参加したり船乗りになって東方を旅したり、様々な経験を積んだ変り種の修道士なのです。各地の港に女性がいたり、そちらの経験もなかなか派手だったようです。


さんざん戦い、旅をして女性とも楽しく過ごした彼は、少し早い引退と考えて修道院に入ってきました。経験と思索と、人間観察眼の鋭さで、ちょっと醒めた目で同僚をながめたりもするのですが、基本は深い人間愛を持つ人物です。
この無骨で、暖かく、理知と愛に満ちたカドフェルが登場する第1作目が本書です。
シリーズものとして21冊(1冊は短編集)が出ていますが、もっともっと有名になってほしい歴史ミステリです。
もちろん本国ではホームズ並に有名なキャラクターで、シュールズべりはカドフェルのテーマパークのようになっているそうです。(若竹七海情報^^;)

本書の魅力はまずは中世の人々の生活がいきいきと描かれて、修道院のブラザーたちも人間臭く、身近に感じられることです。
それでいて、キリスト教の信仰や、中世特有の迷信などもリアルに描かれていて、何冊か読むとすっかり中世のイングランドに精通しているような気分になってきます(錯覚錯覚(笑))

その中世の修道院を中心として、様々な事件が起きます。
この巻では、聖女ウィニフレッドの遺骨をめぐって奇跡、殺人、恋愛と盛りだくさんな出来事が絡み合って、その糸をほぐすため、カドフェルは1計を案じます。

カドフェルの魅力はいくつもありますが、やはりそのおおらかな物の見方でしょう。東方へ行った経験から、イスラム教徒にも素晴しい人物がいることを知っていたり、キリスト教徒でも人間の皮をかぶった獣のような酷い人物がいることを認めている。
信仰心は大切だけれど、教義を偏重することはない。
そのせいか、祈りの時間やミサの途中で居眠りをすることがお得意なのです。

また、薬草に詳しいので医者の変わりになり病気や傷を癒したり、時には心も落ち着かせるテクニックを披露してくれます。
この話に出てくるハーブや麻薬の数々もまた、ピリッとしたスパイスのようにストーリーを引き立ててくれるのです。

神と人間、そして奇跡が現代よりずっと身近だったこのころのイングランド
殺人が起きても、科学捜査のかの字もなかった中世。

この1巻目では、カドフェルの推理は徹底した人間観察と、経験から学んだ人間性の考察が元になっています。

そしてだれもが納得し、丸く納めるには・・・。

カドフェルのアイデアはもはや現代人!

ちょっと不思議な要素もありでしたが、大満足の1冊です。