ホラーアンソロジーの愉楽

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お久し振りの読書欄の更新です^^。
今日はちょっと異色なアンソロジーを取上げてみたいと思います。
そう、以前アニスさんのバトンでbeckさんが編んだホラーアンソロジーです。

ご存知のように海外もの、ホラーものといえばbeckさんが出てくる。その膨大な知識、読書経験を惜しみなく注ぎ込んだアンソロジーとなれば読まないわけにはいきません^^。残念ながら全てを読んでないのですが、入手不可能な本もあり、このへんで公開することにいたしました。
どの短編も選りすぐりのホラーで、様々なテイストが味わえました。お目当ての短編ばかりでなく併録されていた他の短編も面白く、アンソロジー苦手意識が少し払拭されました。
beckさん、ありがとうございました。


ディーノ・ブッツァーティ「忘れられた女の子」 「鼠」
               『待っていたのは』河出書房新社より

なんとも不気味で不思議な作品を書く作家でした。
「忘れられた女の子」は、ある夏、友人の別荘に招待された夫人が、客の一言から怖ろしい妄想に囚われて帰宅する、というもの。
ほんの数ページの短編の中に、母親である夫人の恐怖と焦燥が濃縮されています。


「鼠」という短編にしても、毎年招かれていた友人の家。それが、年ごとに鼠たちによって荒らされ、ついには崩壊を招くという不条理な話。

「待っていたのは」はあるカップルが旅行先で遭遇する、理不尽な仕打ちを描いています。

どれも、孤独な個人の恐怖をシュールリアリスティックに描いて引きつけられます。

理解や論理をこえた不条理な世界の中で、むき出しにされた人間の孤独の恐ろしさ。

ブッツァーティという作家、初めて読みましたが、歯ごたえのある硬派なタイプで気に入りました。



リュイス・シャイナー「輪廻」
『恐怖のハロウィーンアイザック・アシモフ編・徳間文庫

ハロウィーンの夜、レスリーたちは6年続けてウォルターの山荘に集まり会合を開いていた。そこでは、全員が怪談を朗読しあうことになっていた。
今年もまたハロウィーンの夜が来て、何人かの友人達が恒例通り山荘に集まってきた。
朗読が始まり、いくつかの怪談が読まれたあと、ウォルターは、以前の仲間が送りつけてきた原稿を取り出した。

それを読み始めたレスリー、その原稿の内容はまるで、レスリーたち山荘に集まる友人らの様子をありありと描き出しているかのようだった。
そして、怖ろしい出来事が起こっていく。

短い物語ですが、タイトル通りの終りの無い恐ろしさが味わえます。



マイケル・マーシャル・スミス「地獄はみずから大きくなった」
               『みんな行ってしまう』創元SF文庫より

私とフィリップとレベッカは、究極の治療マシンとして、ナノマシンの研究に没頭していた。
しかし、実験の過程で使用したウィルスに感染してレベッカは死んでしまう。

ナノマシンがテーマの医療SFのようなストーリー、レベッカの死から一転ホラーテイストに変っていくのが面白いです。
現実と彼岸、その境目を皮一枚めくって見せてくれるような作家でした。



ピーター・トレメイン「髪白きもの」
アイルランドの神話を下敷きにした恐怖小説集。
「髪白きもの」はバンシーをテーマにしたホラー短編。

美しく肥沃な大地に根付き、何世代も続くアイルランド人の農民とそこに侵略者としてやって来たイギリス人兵士との物語。

この短編集にある怪異譚は復讐物が多く、日本の幽霊譚のように悪行を行ったものがその結実として超自然的な怪異によって復讐をされるといった内容が多かったです。この話も、そんな復讐ものの一つでした。
ドルメン、メンヒルなどの巨石文明の香り、プーカという子鬼のような妖精。家人の死を予告すると言われている、バンシー。
アイルランドの豊かな幻想文学の土壌から生まれた傑作ホラー短編でした。


ロバート・R・マキャモン「ベストフレンズ」
           『ハードシェル』より

ふふふ、出ましたね、マキャモン。
この短編がどの時代のものかは分かりませんが、初期のグチャグチャ、ドロドロのマキャモンのホラーが堪能できます^^;文学的になってからのより、こっちの低級ホラーのほうが好きっていう私が変なのかな?


レイ・ブラッドベリ「トランク詰めの女」
           『幻想と怪奇 宇宙怪獣現る』早川文庫

このシリーズは本当にいろいろなテイストを楽しませてくれるアンソロジーですね。

中でも「なんでも箱」など、子供の心理、超自然の癒しの力を描いて秀逸でした。

で、「トランク詰めの女」ですが、これはブラッドベリにしては少し変った路線の物語かもしれません。

屋根裏部屋で少年が見つけたトランク詰めの女の死体。

マネキンなのか、本物なのか。手紙は誰にあてて書かれたものなのか。まるで、ミステリのように畳み掛ける展開。そして、事件の真相が・・・。
現実と妄想が錯綜し、少年の焦燥をあおっていきます。

ノスタルジックな作風が特徴だと思っていましたが、こんな心理ミステリのような短編も書くのですね。



その他
ディヴィッド・マレル「リオ・グランデ・ゴシック」
           『真夜中に捨てられる靴』ランダムハウス講談社より

パトリック・マグラア「串の一突き」は未読。

シオドア・スタージョン&ジェームズ・ベアード「死を語る骨」もアンソロジーに収録されていましたが、入手不可能でした。