梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

イメージ 1

内容(「BOOK」データベースより)
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。 


梨木香歩祭りが一段落したmepoさんが、一言「やはり西の魔女が一番好きかも・・・」と仰った。

以前から読みたかった本書。この一言がきっかけで、読んでみました。

結論。梨木香歩は素晴らしい。未知数の力をまだ持っている作家かもしれない。




私は謎や驚異に満ちたストーリーが好きで、いわゆる魔女のような超能力を持つ人間の話も好きなのですが、こういう切り口でこられると本当に降参してしまいます。
いわゆるSFとかファンタジーとか頭でこね回したような作品はいろいろありますが、この本にはそういうものが一切ありません。

不思議も謎も全部地に足がついている。

なんせおばあちゃんの元で、まいがする魔女修行っていうのが「なんでも自分で決める」「意志を強く持つ」この二つなのですから。
そして具体的な修行といえば、午前は家事のエクササイズ、午後は勉強を自分で予定を立ててすること。なんですからねえ。

そして、まいが挫けそうになったり、心を乱されたりしたとき、おばあちゃんは愛情いっぱいで、まいを包んでくれる。

本を読んでいる私にまでおばあちゃんの愛情が伝わってくる。
おばあちゃんの言葉、行動、ちょっとした時に見せる仕草、そんな一つ一つが心を軽くノックしていきます。

「おばあちゃん、大好き」
「アイノウ」

英国人のおばあちゃんの一言が、まいの疲れてささくれ立った気持ちをゆっくりほぐしてくれます。

まあ、家事をいかにして手抜きするかに毎日心を砕いている私にとっては、かなり耳に痛いストーリーではありましたが、作者の言わんとするところは、何事も丁寧に心をこめてやりなさい、という1点なのかもしれません。
おばあちゃんの家系のように超能力はなくても、魔女の修行はやらなくてはいけないものなんだ、そんなことを思わせてくれる作品でした。

読みながら薄い文庫でしたので、終わらないで欲しいなあ、なんて思いながらページを繰ってました。
そしてラスト・・・。

いきなり急襲されました。
あのメッセージ・・・。
涙がブワッと溢れてきます。

ファミレスでゆっくりしていた私でしたが、そそくさと席を立ちそこを出ました(笑)

梨木さんの作品はどこか現実味にとぼしく、そこがまた好きなところだったのですが、こういう風にやられるとは、思いませんでした。
超自然の力、それは、こんなにも身近に存在し、こんなにも愛しいものだったのか。

とにかく読んで欲しい。
そう感じた1冊でした。