恩田陸 『いのちのパレード』

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内容紹介
<あの黒い表紙、強烈な帯コピー、シンプルかつ洗練されたデザイン。手に取った時の、嬉しいような怖いようなおののきを今でも覚えている。(中略)かつて「幻想と怪奇」というジャンルのくくりでお馴染みであった、奇妙でイマジネーション豊かな短編群には、今なお影響を受け続けている。あの異色作家短篇集のような無国籍で不思議な短編集を作りたい、という思いつきから連載をさせてもらった>(あとがきより)。

恩田ワールドの原点<異色作家短編集>への熱きオマージュ。ホラー、SF、ミステリ、ファンタジー……クレイジーで壮大なイマジネーションが跋扈する、幻惑的で摩訶不思議な作品集。 

久し振りに恩田陸らしさのある短編集でした。(あくまで私的恩田らしさです^^;)
最近の長編は演劇のテイストが強くて、小説というより戯曲、お芝居を読んでいるような錯覚におちいりそうなものが多かったのですが、これはもうガッツリ「物語」でした。
それも、「幻想と怪奇」というシリーズものに捧げるオマージュというところがまた、私の好みにドンピシャリ!(死語?)
シャーリー・ジャクスン、ルース・レンデル、レイ・ブラッドベリ、ディーノ・ブッツァーティ、などなど、読みながら先人の足跡が行間によみがえる不思議な感覚を味わいながら「そうそう、これこれ」なんて呟く自分に苦笑したり・・・。

「幻想と怪奇」というテーマで雑誌に短編を発表し、それをまとめた本なのですが、これはとんでもないイマジネーションの塊ですね。
書き下ろし1編を含む全15編の短編集です。
どれもこれも、水準以上の作品ですが、わりとストレートなホラーというより若干ひねりの効いた小品が多い。この本の表紙に使われているチェコで手に入れた写真集の1葉が、この不思議でナンセンスな雰囲気にピッタリ。

砂漠を進むホバークラフトとそれを見送る太った紳士・・・。なんじゃらほい。

とにかく1編ごとに趣向を凝らした恩田ワールドが展開され、読者をひっぱりまわしてくれます。
どれも面白いのですが、人によって好きな作品が全然違ってきそうなところもまた魅力の一つかもしれませんね。

私がすごく楽しんだのは
「蝶遣いと春、そして夏」
「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」
「SUGOROKU」
夜想曲

そして次点が
「いのちのパレード」
「観光旅行」
「夕飯は七時」

「エンドマークまでご一緒に」などは、萩尾望都の初期の短編のような、楽しくてナンセンスな感じがあって最高でしたね。
って結局みんな面白かったということですが^^;

「スペインの苔」も恐怖と悲惨と不可思議がないまぜになった傑作でした。でも、ちょっとテーマが乗れなかったかも・・・。

1作1作を取り上げるのもいいですが、全体で一つの世界が構築されていくのを見るのもまた、味わい深いものがあります。
こういう傑作をさらっと出してくれるところが恩田さんのすごいところなんでしょうね。
ミステリへのオマージュは「象と耳なり」そして幻想と怪奇へのオマージュが本書ということなのでしょう。