久坂部 羊 『日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか』

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久坂部羊の”死に時のすすめ”。


すんなり死ぬことの難しさを教えてくれた。
もう少し年をとったら「延命治療拒否」の手続きもとろうと思っている私ですが、この本を読むと現代の老人たちが置かれているリアルな状況が伝わってきます。


医薬品も設備もなかった昔の老人たちは眠るように死んでいった。いや、苦しむ事はもちろんあったろうが、今のようにベッドに縛り付けられ身体中にチューブを付けられて何年も生きるなんてことはあり得なかった。
その悲惨さは「コロリ死を憧れを持って語る老人たち」や、意地悪で「あんたなんて死ねない」と言う老女が示している。
どんな人間にも来る死。しかし、それがどんなものなのか、いつ来るのかは誰にもわからない。
老人が長生きに希望を見なくなった社会。ころりと死ぬことを望む社会。
本当に日本は良くなったのだろうか、と考えてしまった。


実際の診療にあたっていた医師の体験だけに重く、暗い。
食べ物が取れなくなり、飲み物も少ししか飲めなくなって人は枯れるように静かに死んでいく。
そんな昔の死に方はもう望んでも得られないのかもしれない。

点滴や胃にチューブを通し栄養補給をする。
声がだせなくなるが、咽喉を切開して呼吸を楽にする。

こんな治療は日常的に行われている。そして老人の寿命は延びていく。
SFに描かれるアンチユートピアのような医療の地獄が待っている。

現実はつらい。向き合うまでにまだ少し時間があるさ。
そう思わないとやりきれない未来が提示されていた。