奥田 英朗 『家日和』

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家族をテーマにした短編、6篇が収録されています。

奥田さんの筆が小市民のすがたを、時に滑稽に、時に切実に、暖かく描いていきます。


インターネットのオークションにはまった主婦。
日頃、家族から空気のように扱われていた紀子は、折りたたみテーブルを処分するため初めてインターネットオークションを体験する。
評価、という初体験に自分の価値を見出す紀子。
主婦の疎外感と家族の関係、奥田さん・主婦説が飛びかいそうな描写がいいです。

ここが青山

14年間勤めた会社が倒産し、妻は以前の会社に再就職。
裕輔が主夫となって家事をすることとなった。

案外家事に向いてるじぶんを発見する裕輔と、彼をとりまく人達の物の見方のズレが面白い。


家(うち)においでよ

妻と別居することになった正春。
自分の家具を全部持っていってしまった妻。ガランとしたマンションの中で、正春は自分の好みのインテリアを考えはじめる。
除々に揃いはじめたオーディオセット、ソファ。DVDやCDにかこまれ、酒を飲む正春の部屋はまさに独身男性の楽園だった。
友人が押しかけ部屋は、気の置けない友人の集まる居酒屋のようになってきた。

独身のころは貧乏で好きな家具やオーディオは買えないし、結婚してからは妻が主導権を握りインテリアを決められる男たち。けっしてかっこよくないし狭いけれど、居心地のいい理想の部屋。
ああ、こんな部屋、主婦だけど欲しくなってしまった(笑)

グレープフルーツ・モンスター

あまり読後感のよくなかった1編。
内職をしてる主婦、弘子。
地域の担当が若い男に替わった。彼はけっして感じよくもないし、好みのタイプでもないのだけど、柑橘系のコロンが弘子を妄想にかりたてる。

夢のなかでのSEXという現実逃避がテーマだけど、主婦も男性も感じ悪くてなんか後味の悪い作品でした。


夫とカーテン

調子がよくてあまりものを考えずに行動する無鉄砲な夫。彼が転職をしたり商売を始めたりするたびに不安に駆り立てられる妻、春代。
今回はカーテン屋を開業するといって張り切っているが、前途多難。

夫が新しいことを始めるたびに振り回される春代だが、けっこういいコンビの夫婦。
終わり方も奥田さんらしくない爽やかさ(笑)


妻と玄米御飯

これが一番面白かった。
ベストセラー作家になった康夫、妻はオーガニックものやらロハスに走るようになってしまった。
ロハス仲間の佐野夫妻にいわれなき反感を抱く康夫。ロハスの象徴が玄米御飯なのであるが、子供にも康夫にも不評。
そしてついにユーモア作家である康夫は近所のロハスの流行を槍玉にあげる短編を書いてしまうのだ。

「自分らしく」「地球にやさしい」「真っ白な歯」
いちいちツッコミを入れる康夫に、「ホント、バケツ1杯の雨水を溜めるだけで、ダム建設を止めようなんて可笑しいよなあ。」と変に共感してしまう。





この「妻と玄米御飯」もそうなのだが、今回の短編集はちょっと最後のキレが悪い。
人の悪い私がいけないのかとも思ってしまうが、せっかく奥田さんの短編を読むのならと、もっとメチャクチャな結末を期待してしまうのだ。
伊良部医師シリーズのように、どんなにメチャクチャでも、最後はすっきりという作風があるだけに今回の家族テーマはちょっと喰い足りない気がしてならない。
それでも、各ストーリー、水準以上で楽しめました。