恩田陸 『中庭の出来事』

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内容(「MARC」データベースより)
瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。自殺? それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。 


いやあ、恩田節が炸裂の小説世界でしたね~。

ご本人が楽しんで書いてるなあという感じがビンビン伝わってきました。

外側のお芝居と内側のお芝居。この言葉だけでもややこしいのに、この作品は幾重にも入れ子のような仕掛けがほどこされ、読者はその迷宮のような世界に引きずりこまれ、眩暈のような感覚を味わう事となります。

以下は私の独りよがりの感想文です。
この作品から受けた印象はこんな感じでしたが、読む人によって、まったく違った感想を持つのがこの作品の特色かもしれません。



これは恩田陸版『真夏の夜の夢』なのではないか?

作者がパックとなって、読む人の目に目くらましの粉を振りかけていく。

これはミステリとは言えない。
恩田陸が演劇の世界に触れて、その独特な刺激に触発されて書いた一つの謎をめぐる物語である。

幾つもの中庭をめぐるストーリーが語られる。

本当に死んだのは誰だったのか。
謎の解答はいくつも読者に放り投げられるのに、どれもこれもすっきりしない解答ばかり。
まるで「虚無への供物」の探偵ごっこのように、迷路に迷い込んだような釈然としない解答ばかり。

「ウソ」をめぐる事象。
演技、演劇は嘘(虚構)である。
恋愛も嘘(勘違いや思い込み)の上に成り立つ。
ミステリには嘘(偽証や隠蔽)が付きものである。


虚構を描き、虚構を愛する恩田さんならではの複雑で人を食った物語である。

繰り返されるシーン。
3人の女優のせりふ。あるいは独白。
同じ演劇の世界を描いた「チョコレートコスモス」とはまったく違う世界。
少し人名や設定でかぶるところもあるけれど、「チョココス」はさっぱりと忘れて、この迷宮を味わってほしい。

この物語にはもう一つ、「旅人たち」という章がある。

二人の演劇関係者が霧の中、山道を歩きながら話に興じるというパート。

廃駅になった場所を劇場にしたところを尋ねるのが目的のようであるが、恩田作品らしい長々としたおしゃべりが続く。

舞台としての中庭。
そこは、演じるものと観るものが同時に存在する空間だ。
現実の世界と虚構の世界。その両方に存在する中庭。
その空間の閉鎖性、親和力の魅力。



戯曲形式の『中庭の出来事』の章。
2人の男の会話で成り立つ「旅人たち」の章。
ホテルの中庭で交わされる男女の会話「中庭にて」の章。

この3つの章が代わる代わる現れて、謎の周辺の幕を少しづつ剥ぎ取っていく。
幾つもの謎、多面体のような、光の当て方ひとつで相貌をがらりと変える真相。

恩田陸の演劇についての思いや、ミステリの解決についての考えもちらっと姿をあらわす。

巴という登場人物が少し作者に似ているような気がした。


何を書いてもネタばれ、と言うか、これから読む人の愉しみを奪ってしまいそうな気がするのでこの辺で〆といたしましょう。

きっと読み終わってあなたはこう呟くに違いありません。

「この中庭はどこの中庭なんだ?」