ボリス・アクーニン 『リヴァイアサン号殺人事件』

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一九世紀末パリ、大富豪が怪死をとげた。唯一の手がかりである「金のクジラのバッジ」が指すのは、イギリスからインドへ向かう豪華客船リヴァイアサン号。見え隠れする「消えた秘宝」の謎と、それぞれいわくありげな乗客たち。―このなかに犯人がいる。日本赴任の途上に船に乗りあわせたロシアの若き外交官ファンドーリンが、快刀乱麻の推理で事件に挑む。ロシアの“悪人”が生んだ推理活劇シリーズ。

ロシア人作家、岩波書店、「リヴァイアサン~」。
これだけで、思わず後ずさりしてしまう私ですが、一応ミステリだし、高村薫が「欠けているものは何もない優雅なグランドミステリ」と誉めているようだし、試しに読んでみよう、と恐る恐る手に取ったのですが。
杞憂でした。
面白かった~!

冷酷な殺人犯が乗っていると思われるリヴァイアサン号。
犯人を炙り出すべくパリの警部ゴーシュは、身分を隠して乗客、乗員を調査し始めた。
やがて、国籍もまちまちな容疑者がリストアップされ、船内の食堂ウィンザー・ルームに集められた。

リヴァイアサン号」はイギリスを出航してインドまでいく豪華客船で、船籍は英国。
殺人現場はパリ。被害者もフランス人大富豪とその使用人たち。
唯一探偵役だけが、ロシア人外交官エラスト・ファンドーリンなのです。
~ビッチとか~スキーとか、「罪と罰」を読むような名前を覚えるだけで3日かかるようなヤヤコシサはありませんでした。

19世紀末の優雅な船旅。
そこに現れる紳士淑女の振るまいの時代がかっていること。
1956年生まれの現代ロシアの作家とは思えない、まるで、クリスティのミステリを読むような楽しさがありました。
冷酷な殺人、隠された財宝、海の上でおこる殺人。
冒険活劇を見るような、テンポのはやいストーリー。乗客たちのユーモラスな描写。この作品の魅力は、さらに娯楽作品としても、文学作品としても1級だということでしょう。
作品はいろいろな乗客の視点から語られます。
中でもギンタロー・アオノという日本人が出てくるところなど、読み応えがありました。
作者は日本にも留学し、翻訳にも携わったことのある方らしく、当時の武士の心の動きなど、けっこう納得してしまう筆の冴をみせています。
なにかアクーニンというペンネームも日本語の悪人からとったのだとか。
作者のユーモアのセンスが不思議ちゃんです(笑)

ファンドーリンのシリーズは11作も出ているのだとか。
この新しくも古めかしい名探偵については、とても美男子で、スポーツ万能、女性にもてて自分もそちらには目がない、というまことに正統派の美形キャラです。
でも、作中はちょっと吃音ぎみの喋り方や、人の良い受け答えなとがあって、私にはどうしても「かっこいい名探偵」のイメージは定着しませんでした。
どちらかというと、ダメダメな感じの品のいいタックとか、謎解きがうまい石岡君あたりがイメージでしょうか(笑)。

もう1冊刊行されている「アキレス将軍暗殺事件」を読んで、ファンドーリン氏のイメージが、かっこよくなることを希望します。
あ、でも、ダメダメなところのある本書のファンドーリン、魅力はあるんですよ^^;

ロシアの大地が生んだアクーニンのミステリは、骨太で楽しくしかも高踏な文学の香りさえ漂う傑作でした。最近は贅沢なことに、こんないい本ばかり読めて幸せなしろねこでございます。