ドナルド・A・スタンウッド 『エヴァ・ライカーの記憶』

beckさんお薦めのミステリです。

これは恋人のようなスリラーだ。
という書評家の言葉通り、甘美に酔わせてくれる作品でした。


分厚い本で、1979年発行だけあって活字も細かく2段組。
それなのに、読み始めるや忙しい時期にもかかわらず、数日で読み終えてしまった。
いつも、長いミステリとなると、途中で他の本に浮気する私だが、これ1冊で、暇を見つけては読みふける楽しさを味わった。

若き作家のデビュー作である。
学生時代に着想を得て、8年の長きにわたり書きつづけた「エヴァ・ライカーの記憶」。
謎あり、冒険ありの一級品のミステリだった。

タイタニック号の生き残りという老夫婦の死を発端に、当時、警察官として事件に関わった主人公、ノーマン・ホール。彼は、この事件がもとで、警察を追われ、様々な職業を経て、現在はベストセラー作家として名をなしている。
ノーマンは妻とともに、タイタニック号の引き上げを描くドキュメント作品を依頼される。

沈没の1912年から、引き上げ計画の1962年、その間に起きた様々な歴史的な大事件。
ストーリーはアメリカの歴史を辿るかのように、大きなうねりを感じさせ、読者を謎のなかに巻き込んでいく。
長い歴史と、その闇のなかに沈んでいった、小さな少女の記憶がどう繋がっていくのか。

沈没という大事件。そのさなかに何が行われたのか。
すごいアイデアが作者に浮かんだ。

歴史の波の中、木の葉のように翻弄された少女、エヴァ。彼女をめぐって起こった悲劇、欲望と謀略、そして、運命的な偶然が、複雑な模様を織り上げる。

世界に散ったタイタニックの生き残りたちの証言を求めて、ノーマンの旅が始まる。
地球上に散った証人を探しあてる過程、足跡を追うような誰かの影。

誰が悪なのか?
謀略を仕組んだのは誰なのか?
予想を次々と裏切られ、読者はノーマンと一緒に混乱し困惑する。

そして最後まで作者はその手を緩めないのである。

とまあ、書きすぎてしまうのもあれですから(笑)
この辺でやめておきましょう。

一気に読むというには、複雑すぎるかもしれませんが、作者の筆は複雑で込み入った事件を、たやすく理解できるように書き上げています。

こういう傑作でも、本屋さんの棚からどんどん消えていってしまうんですね。
beckさんの紹介を読まなければ手に取る事もない本でした。
ありがとうございました。