北上秋彦 『吸血蟲』

イメージ 1

台風19号の爪あとは、ここ岩手県北部の津谷瀬村にも大きな被害を与えた。
風と雨の猛威によって山肌は削られ、土砂崩れの発生とともに杉の大木がごっそりと、土や岩を削りとって崩れ落ちていった。

最悪の災害は過ぎたかに思えたが、村の本当の災厄はこれから始まろうとしていた。
杉の大木が崩れた斜面には、ぽっかり口を開けた暗い洞窟があった。
さらに、大雨によって村を外界に繋いでいる唯一のトンネルの上の斜面が静かに崩れようとしていた。

50年前の災厄が蘇り、死霊となって村をさ迷う。
人々をおぞましい死霊に変貌させる、その正体とは。

いやあ、ゾンビものの日本版がこんなに成長していたとは、嬉しいですねえ^^。
ちょっと見ただけで、誰もが「屍鬼」を思い浮かべてしまう、そんな不幸を背負った本書は、実は「屍鬼」より前に執筆されたホラー小説です。

しかし、事情があって出版が遅れ、小野氏の「屍鬼」が先になってしまったそうです。
北上秋彦氏は「クラッシュ・ゲーム」以来のファンですが、こんなB級の面白さに満ちた作品を書いてくれるとは思いませんでした。
キングやクーンツに尊敬をこめて捧げられた「リビングデッドもの」の傑作ホラーといえるでしょう。

設定はずばりキングの「呪われた町」の岩手版。
津谷瀬村という架空の村を舞台に、第2次大戦の時、封印された呪われたものが地上にとき放たれてしまう。
おぞましい吸血鬼に変貌した家族や友人、職場の同僚。
ねっとりとした暗闇の描写がB級の恐怖をあおります。
警察官の触沢、臨床検査技師の亜希子、小学5年生の茉莉香の三人の目を通して、恐怖は描かれていきます。
姉の消息を尋ねて、弟のSOSに応えて、触沢と亜希子は村にやってきます。
そこで、彼らは死霊と化した両親に襲われた少女と出会います。
台風によって孤立した寒村。
そこに発生した異常な事件。
北上氏のB級ホラーへの愛情が伺えますね。


海の向こうの先達たちにも劣らぬ面白さ。
クーンツの弟子とういうことであれば、小野氏よりこちらのほうが近いと言える。
暇で、夜長にホラーでぞくぞくしたい方にはお薦めです。
くれぐれもグロが駄目な方は、お読みになりませんように(笑)