島田荘司 『犬坊里美の冒険』

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内容(「BOOK」データベースより)
雪舟祭のさなか、衆人環視の総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体!残された髪の毛から死体の身元が特定され、容疑者として、ひとりのホームレスが逮捕・起訴された―。しかし、死体は、どこに消えたのか?そして、被告人の頑なな態度は、なぜなのか?司法修習生として、倉敷の弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願して、その事件を担当した!里美の恋と涙を描く青春小説として、津山、倉敷、総社を舞台にした旅情ミステリーとして、そして仰天のトリックが炸裂する島田「本格」の神髄として、おもしろさ満載の司法ミステリー、ここに登場。 

軽いタッチの娯楽作品なのですが、随所に島田先生らしい伏線が張られていたりして、本格の面目もほどこした作品に仕上がっています。

でも、先生、作風変りましたか?

主人公里美の造形がなかなか楽しく、現実離れしています。
可愛くてナイスバディ、涙もろくて気が小さい。
およそ司法修習生という役柄にふさわしくないキャラクターです。
里美の話し言葉が「はいー」「~なんですー」とか、変に伸ばすのが気になりました。ここまで里美のトロさを強調しなくてもいいのでは?

すでにオウム事件で横○弁護士という人物を知ってしまった私たちには、こういう修習生もありなのかな、という思いはありますが・・・。

その気の弱い女の子が、試練に遭いながらも、健気に真相を追い、正義をまっとうしようと涙でぐちょぐちょになりながらも、立ち向かっていくあたりは、面白かったですね。分厚い本ですが、サクサク読んでしまいました。

倉敷の弁護士事務所を出発点として、里美たち司法修習生の研修は始まります。
そこで消えた腐乱死体の謎に遭遇した里美は、容疑者にまで泣かされながら、事件の真犯人を探っていきます。
自分の担当した被告、藤原は本当に犯行を行ったのだろうか?
冤罪という重いテーマを、里美の行動を通してテンポよく描いていきます。ここは島田先生のこの問題に対する姿勢も伺えて興味深いものがありました。

くじけそうになった里美が電話するのは石岡さんのところでした。

石岡さんと、なにか淡い恋の始まりがあるのか、このあたりはシリーズが進むにつれて期待したいところです。

電話で話す石岡さんのセリフが心に沁みて、深いのです。

明るくテンポのいい作品のなかで、ここはちょっと雰囲気が変った見所です。
「哀しみを涙に変える。先に進みたければ、その涙を力に変えるんだ。」
「怒りは駄目なんだ。瞬発力にしかならない。持続力になるのは悲しみなんだよ、それも抑えた悲しみ。」

自信を失って、泣く事しかできない里美を力づける石岡さんの言葉には、苦しみを知って、絶望も嘗め尽くした男の重みのある言葉です。
「異邦の騎士」を思い出すようないい場面でした。

そして、今回の真相。島田先生はどうやって消えた腐乱死体の謎を明らかにしてくれるのか?

ふうん、そう来ましたか。なるほど・・・。

いや、また糸の先に腐乱死体をくっつけて、神社の鳥居を利用して空にブ~ンっと・・・。
なんて訳ないですね^^;
うん、状況的に無理があるような気もしますが、面白い発想でした。

本格推理ものとして、岡山のご当地ミステリとして、里美のキュートな魅力を満喫する作品として、満足できる仕上がりでした。

(もっとも、私としては相変わらず、島田先生の描く女性像には一言も二言もいいたいことがありましたが・・・

と釘を刺しておきましょうかね。)