『三丁目の夕飯(6)』 時空を越えて~第三弾~

「あ、あそこに光っているのは、まさしく私のタマネギ!」
ちいらんばだの胸が躍った。
「ようし、ここで一発気合を入れるか!」
ちいらんばだは立ち上がると、見事なステップでランバダを踊った。
亜空間に流れるダンスミュージック。それはもう一つのタマネギにも届いていた。

その5はこちら
『三丁目の夕飯(6)』

「ああ、あの音楽は!会長の「ランバダ」だわ!」
野いちごの目に涙が浮かんだ。
「やっぱり助けに来てくれたのね。」
そして円形の窓から金色に輝くタマネギの姿を見つけ
「ちいらんばだ会長!もうダンスはいいから早く助けにきて~」
と叫んだ。
「くそっ!どうしてタマネギが2台もあるんだ?
こっちは動かない不良品だっていうのに・・・」
ドナルドの声がうわずっている。さすがの彼も焦っているのだろうか。
その時外部スピーカーからちいらんばだの声が聞こえてきた。
「ドナルド、その宇宙船は航行不能だ。プログラム不良のカードがスロットに入っている。
私の持っているカードを使わなければ、お前は一生亜空間に閉じ込められてしまうんだぞ。」

「うう~。秘書も可愛くなければ会長までかわいくないぞ~~」
ドナルドは歯軋りしたが、もうどうすることもできなかった。
「わかった。降参するよ。だからこのへんてこりんな亜空間から出してくれ!」
ついに、ちいらんばだはドナルドを押さえつけることに成功した。
「よし。野いちごくん、そいつを縛り上げて動けなくしてくれ。私はまぁまぁさんが置いていった宇宙服でそちらに向かう」
ちいらんばだは宇宙服を素早く着込むと、虹色の亜空間に飛び出した。外部に付いた噴射ユニットを使って慎重にタマネギに近づく。タマネギのエアロックが開かれちいらんばだは無事に元の宇宙船に乗り込むことができた。

「会長!」
「野いちごくん!」
ぐるぐる巻きのドナルドの横で二人は抱き合って再会を喜んだ。
「おいおい、こっちの境遇も考えてくれよ。」
情けないドナルドの声にはっとして離れる、ちいらんばだと野いちご。
「と、とりあえず、よかったよ。」
「ええ、会長」
「早くこのうざったい亜空間から脱出しようぜ」
ドナルドのもっともな提案に二人は頷くと
「野いちごくん、私は向こうにもどるよ。このカードでタマネギを操縦してさっきの6時45分にきてくれ。そこで合流だ。」
といって、もう一台のタマネギへと戻っていった。

すったもんだのあげくに、全然改心してないドナルドを連れて2台のタマネギは昭和38年11月23日午後6時45分に帰還した。

そこで、ちいらんばだは、1台目のタマネギに慎重にシートを掛けて原っぱに隠すと、2台目のタマネギも別の土管のかげに隠した。次に、純子を探さなくてはならないのである。
果たして、ドナルドと純子を会わせて、改心まで持っていくことができるのか、野いちごにもちいらんばだにも荷の重い仕事がまだ残っている。

さて、ここで、お話しの途中ですが、整理したいと思います。
最初にこの世界にやってきたちいらんばだたちを「ちいらんばだA、野いちごA」とします。
そして、今、ここにいるちいらんばだたちを「ちいらんばだB、野いちごB」とします。

6時40分頃この世界に到着した、Aの二人は、7時ころに素朴夫人に出会い純子ちゃん捜索に協力します。そして約30分後7時半ころに、原っぱで誘拐されそうになっている純子を救出。
感謝され夕飯をご馳走になった二人は10時頃に、純子の進めでMr.Gの研究所を尋ねます。

そこで二人は、自分たちがこの世界で、多大な影響力を持つことになる一人の芸術家ドナルド団長の誕生を、邪魔してしまったことを知らされるのです。

Mr.Gの協力を得て、二人(A)は歴史を修正すべく、タマネギに乗って少し前の午後5時へと戻っていきます。
それが、11時30分頃のこと。
午後5時に戻った二人はドナルドを見つけますが、純子に会わせられず、返ってドナルドを悪い方向に目覚めさせてしまうのです。なんと、タマネギを乗っ取られ野いちごまで連れ去られてしまいます。
この時点で6時40分、最初に到着するちいらんばだ、野いちごが現れて、ちいらんばだは二人存在することになってしまうのです。とうことで、慌てているちいらんばだの方はBになりました。
6時43分、ちいらんばだBは、慌てて未来へ行き、Mr.Gのアドバイスを求めます。

そこは、まだちいらんばだAと野いちごAがいる研究所の11時、慌てたちいらんばだBが、Mr.Gの研究所に戻ってきて、金魚鉢を割ってしまいます。
そこでMr.Gに本物の本楽大学カードを渡され、亜空間に閉じ込められた野いちごとドナルドを助けに向かうのです。

亜空間で無事野いちごBと再会しドナルドをぐるぐる巻きにした二人は、2台のタマネギに分乗して再び6時45分、二人のAがこの世界に到着した直後の原っぱに帰ってきました。

いかがですか?
作者の頭もオーバーヒートです。一番事態をよく把握しているのは、たぶんMr.Gなのではないでしょうか?

さて本題。

「さっき、ここに来たとき私は純子ちゃんを見たんだよ。」
ちいらんばだは、原っぱの横を走る道路を見渡しながらつぶやいた。
「え?もしかして最初にここに到着した時のことですか?」
「そう。純子ちゃん、タマネギが原っぱに降りるところを興味しんしんで眺めていたんだがなあ。」
しかし、道路は人影もなく静まりかえっていた。
「まだ5分しかたっていないわ。とにかくその辺を捜してみましょう!」
野いちごと二手に分かれて、何度目かの夕方の街を捜すはめになった。

「いましたか?」
「いや、こっちもいなかった」
時間は刻々と過ぎ去っていく。
「わあ、もう7時だ。あと30分しか猶予がない!」
二人に焦りの色が見え始めた。
「こうなったら、もう一度過去へ行くしかないのか?」
「ああ、もうややこしいわ!」
打つ手もなく二人はタマネギに引き返した。

「いったい何回6時台をループすればいいんだ!」
ちいらんばだも何時に設定するか、なかなか決まらないようだ。

と、その時。
「きゃあ、会長!危ない!」
野いちごの叫びと同時にちいらんばだの目の前に星が飛び、次に深い闇の中に意識が沈んでいった。