海堂 尊 『ナイチンゲールの沈黙』

イメージ 1

内容(「BOOK」データベースより)
東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜。担当は、眼球に発生する癌―網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供たち。眼球を摘出されてしまう彼らの運命に心を痛めた小夜は、子供たちのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口公平に依頼する。その渦中に、患児の父親が殺され、警察庁から派遣された加納警視正は院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で緊急入院した伝説の歌姫、そこに厚生労働省の変人・白鳥圭輔も加わり、事件は思いもかけない展開を見せていく…。

東城大学小児科病棟に勤務する浜田小夜。彼女を中心に起こる事件、そして不可思議な現象。
医療ミステリと思って読んではいけない。
たぶん、この作品は下手な詩人が書いた「医療SFファンタジー犯罪音楽小説」なのだから。

相変わらずの面白さは認める。独特のキャラクター造形。
田口と白鳥のコンビ、新登場のエリート警察官、加納警視正など、濃くて個性豊かなキャラクターが活き活きと活躍する。
しかし、活きのいい文章の合間にふっと差し挟まれる、へんに詩的な表現が違和感をかんじさせる。

内容も今回は特に不可思議な現象が描かれている。
人々に悪の感情や記憶を想起させて、自殺や犯罪に走らせてしまう歌、「ラプソディ」。そのために発売したCDは回収され、それ以来幻の曲になっている。ここまではよくある名曲にまつわる噂ですむが、この曲が鍵になり事件の解決に結びつくあたりはもはやSFであった。
さらに作者の筆はエスカレートしていく。
厚生労働省の白鳥が、殺人事件の捜査に協力したり(厚生労働省ははっきりいって関係ない)、加納警視正の捜査手法「デジタル・ムービー・アナリシス」も現実にはありえない技術を使っていたり。

でも、この作品はSFファンタジーだからいいんです(笑)

飛び散る血しぶきを様々な角度からデジタル撮影して、それを解析すると犯人の身体特徴が浮かび上がる(何故か体重まで推定できる)。これが「デジタル・ムービー・アナリシス」である。
なんとSFチックなソフトでしょう!
読みながら
「ないでしょう!現実にはありえないでしょう!」
そんな言葉を飲み込みつつ、一応張ってある伏線に「へー」とか呟いていた。

読了後、
「う~ん、ジャンル分け不可能!」
これが私の結論。

文章は読みやすいし病院内部の描写などリアルなのですが、ありえない設定が多すぎる。
看護士長の猫田。いつもうつらうつら、居眠りをしているが病棟内は整然と保たれ、なにかトラブルがあると「千里眼」の名の通り、問題点をすぐに見つけ出す。
こんな暇そうな看護師さん(しかも看護師長!)見たことない。

それに眼球の癌に罹って、摘出手術を受けなければならない子供たちには胸が痛んだが、その未成年者に事情聴取するときに何で白鳥が、しゃしゃり出てくるの?

まあ、違う天体、違う次元のSFであれば起こりえるかもしれない不思議な小説でありました。

あ、もちろん面白く楽しく読みましたが^^;