『三丁目の夕飯(3)』 時空を越えて~第三弾~

その2はこちら

あらすじ^^;
「鉄腕アトム」のアニメをリアルタイムで見るために昭和38年に降り立ったちいらんばだと野いちごのコンビは、自分たちが次元を超えて平行宇宙の昭和38年に来てしまったことを知る。
そこで誘拐犯に連れ去られそうになっていた少女、素朴純子を助けることになる。
純子のすすめで、近所に住むマッド・サイエンティスト、Mr.Gに会いに行った二人であるが・・・。


「まあ、そう驚かずに聴いてください。」
Mr.Gは二人にコーヒーをすすめ、自分も一口飲むと、
「それでは、混乱したお二人の為に、この世界のお話をしましょうか。」
「この世界は、手塚治虫のいない世界なのです。」

「ええ!そ、そんなあ!」
ちいらんばだと野いちごは揃って声をあげてしまった。
「アトムのアニメを見るためにこの時代にやってきたというのに~~!」

「ふっふっふ、残念ながら手塚氏は、この世界では医者として成功してますよ。なかなか良いお医者さんになって外科医としての腕もいいようだが、それだけのこと。
彼に命を救われた患者さんの数は多くても、アニメや漫画で影響を与えた漫画家手塚の功績には全然およばない。」

「外科医になったのか!」
「彼、医学博士の資格をもってますよね。」

「そう、しかしです。こちらの世界はこちらの世界で、才能ある若者が手塚治虫と同じくらい素晴らしい仕事をする予定でした。それを、君達が邪魔してしまったのです。」
思いがけない言葉がMr.Gの口から語られた。

「えええ?なんのことを言っているんですか?!僕達は何もしてませんよ!」
「そうですよ!この世界に来たばかりなのに、そんな歴史的な人物の邪魔なんて出来るわけありませんよ」
二人は口をそろえて抗議した。
「その人物は貧しく、運にも見放され自暴自棄になっていたのです。犯罪でも何でもやって金を手にしてやろう、そんな悪い考えに取りつかれていたのです。」
二人を無視して語り続けるMr.G。
「しかし、昭和38年11月23日。彼は一人の少女と出会い、彼女の無邪気で純朴な人柄に触れて改心する。
その上、彼の上には神から降りたかのような素晴らしいインスピレーションが舞い降り、劇作家として映画監督として後世に名を残すばかりではなく、キラ星のごとき才能豊かな後続たちを導くことにもなるのです。」

「彼の名は『ドナルド団長』。ある世界では『ビニ本団長』として気のいい男として生き。亜空間では『海賊ドナルド』として悪名をほしいままにしている。非常に毀誉褒貶の激しい男なのです。そしてその本質には、芸術家としての魂が宿っています。」

「ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ、あたしたちがさっき助けた純子ちゃんは!」
「そう、本当ならば母親が心配しているうちに、団長は純子と話を続け、誘拐して金を取ろうという自分を恥じ、改心して立派な芸術家になるはずだったのです。
しかし、彼がこのまま改心せず、『ドナルド団長』も誕生しないとなれば、この世界は暗くぎすぎすした冷たい世界となり、紛争やテロ、果ては世界大戦に突き進み滅びの運命を辿ることになってしまうでしょう。」

ちいらんばだの口が大きく開いた。
野いちごも目を白黒させて、言葉が出てこない。

「そこで、私が登場したのです。16666年前のMr.G総会によってこの事態はすでに予見されておりました。
あなたがたを導き歴史を修正するチャンスを与えようと今までこの研究所でお待ちしていたのですよ。はっはっは」
『はっはっは、じゃないわよ。知ってるなら自分でなんとかすればよかったじゃない!』
野いちごは心の中ですかさず突っ込みをいれた。が、とりあえず
「あの~、Mr.Gさんはいったいお幾つなんですか?」
とおそるおそる尋ねた。
「私に年齢は無意味です。私はEverywhenでありEverywhereであるのです。」
「?????」
「?????」
クエスチョンマークだらけになっている二人に少しいらだったようにMr.Gは言った。
「もう、あまり時間がありません。」

と、そのとき隣の部屋からガチャーンという何かが割れるような音が響いた。
「ん?またうちのデブの白猫が粗相をしたかな?」
Mr.Gは振り返ると、失礼といって隣の部屋に消えていった。

残されたちいらんばだと野いちごは、ふうっと深く息を吐くと、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干した。

「会長」
「ん?」
「理解できました?」
「いや・・・。」
「ですよね。私もちんぷんかんぷんです・・・。」

「でも、野いちごくん。私たちがやって来たためにこの世界の歴史が変ってしまうというのは、あり得ることだよ」
しばらく考えていたちいらんばだはポツリと言った。
「良かれと思って親切のつもりでしたことが・・・」
「世界を破滅に導いてしまうなんて・・・」
二人ともたった今聴かされた事に衝撃を受けてしまった。

その時ドアが開いてMr.Gが戻ってきた。
「失礼、やはりマダムの仕業でしたよ。3日前に迷い込んできた猫なんですが、愛想はない、そそっかしいはで、また捨ててしまおうかと思ってるんです。」
Mr.Gの腕のなかには、言葉どおりでっぷり太った、白い猫が抱かれていた。
ブスッとした表情で「ふ~」とGの白衣に爪をたてている。

「金魚鉢にちょっかいを出して落っことして割ってしまったんですよ。まったくイタズラばかりして・・・」
Mr.Gも手を焼いているようだ。
白猫はもがいてGの腕から飛び降りると、ちいらんばだの足元にきて見上げると「にゃあ」と鳴いた。
そして、ふさふさとしたシッポをぶんぶん振り回すともう一度
「にゃあああ」
と鳴いた。その時、ちいらんばだは、白猫がにやりと笑うのを確かに見たと思った。

「ふっふっふ、これはこれは、懐かれてしまったようですな。よかったら一緒に異次元に持っていってくださいよ。
その白猫も私と同じような異次元の動物のようですから、あなた方の世界に連れていっても、タイムパラドックスは発生しませんからね。」
ゴロゴロ咽喉を鳴らしながら、ちいらんばだと野いちごの足元に身体を擦りつける猫を見ながらMr.Gはやっかいばらいを考えているようである。

「ところで、猫どころの話しではないですよね。さっきのMr.Gさんの話だと私たちのせいでこの世界が破滅に進んでいるとか!」
野いちごが、例によってそれてしまった話題を元に引き戻した。
「おお、そうそう。その話でしたね。」
パンと手を打つとMr.Gはまたソファに腰をおろした。
「Mr.Gもけっこう天然なのだろうか?」
野いちごは又、心の中で呟いた。

「そこで、私はこの世界が破滅に進まないよう手立てを講じる必要があってここに派遣されているのですよ。
つまり、あなたたちのお手伝いをさせていただくわけです。」
「そ、それはいったい何を、いや私たちは何をすればよいのですか?」
ちいらんばだは、Mr.Gの目を真剣に見つめながら尋ねた。

「うむ、あなたたちがすべきことは、過去にもどって団長と純子ちゃんを会わせること、これに尽きます。時間の流れには力があります。なるべくようになる、この力によって二人を会わせれば必ず、団長の心は癒され改心して立派な芸術家になるはずです。」
「か、過去に戻る・・・?」
「そう、あなたちが助ける前に純子ちゃんと団長に時間を与えなければなりません。原っぱで会うより前に二人を会わせて、そうですね、1時間くらいあれば充分でしょう。団長が改心するチャンスを作ってください。」

「分かりました!」
ちいらんばだは立ち上がった。その拍子に膝の上で丸くなっていた白猫が振り落とされ「にゃあ」と抗議の声をあげた。

「過去へたまねぎで戻って必ず二人を会わせてみせますよ。」
しかし、そこでふと心配顔になって
「本当に純子ちゃんに危険はないんでしょうね?」
と念を押した。
「これは歴史の一部です。絶対に危険はありませんとも!」
Mr.Gは頼もしく頷いた。


その4へ続く