『三丁目の夕飯(2)』 時空を越えて~第三弾~

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「多分そうですよ。でも、会長。これって偶然なんでしょうか?彼女にこんな遠くの世界でめぐり合ったってこと・・・。」
「・・・・・」

黙り込んでしまったちいらんばだを置いて、野いちごは素朴夫人に夕飯のお礼を言いに台所へ向かった。
残されたのは、困り果てた表情のちいらんばだと純子。
「おじちゃん、困ってるの?」
「ああ、ちょっとね。あの宇宙船でどうやって帰ればいいのか、分からなくなってしまったんだよ。」
「ふ~ん、困った時は博士に聴くといいよ~。ウン!」
「博士?どこに住んでる人だい?」
「博士はねえ、あの原っぱのそばのけんきゅうじょって所にすんでるんだよ。大きいけんきゅうしつっていうのを持っていてそこで宇宙のことやいろいろな事をけんきゅうしてるんだって。」

「ははは、そ、それはすごい人を知ってるんだねえ」
ちいらんばだは心の中で「マッド・サイエンティストか!」と呟いた。
しかし、こうなったらどんな手がかりでも、手助けでも欲しいのが本音である。
「純子ちゃん、そのおじちゃんの名前知ってる?」
「ういうい~~!が・き・は・か・せ・っていうんだよ~♪」
「そうなんだ、ありがとうね。おじさんたち最後の手段で尋ねてみるよ。」

そこへ、夫人とともに野いちごがやってきた。
「もう、お帰りですか?本当にありがとうございました。お怪我までさせてしまって・・・。」
夫人は恐縮しながら袋を差し出した。
「ほんのお礼です。つまらないものですが・・・」

二人は純子にさよならを言って、夫人にも夕飯のお礼をいいながら帰っていった。

もう夜も更けて、原っぱへ通じる道に並ぶ家々の灯はほとんど消えていた。しかし、原っぱの向かいに建つ立派なコンクリートの住宅だけは煌々と明かりが点っている。
「マッド・サイエンティストの研究所かなあ・・・」
ちいらんばだが呟いた。
「え?なにか言いました?」
野いちごが、驚いたように見ている。
「純子ちゃんに聞いたんだけどね。あの家に博士が住んでいるんだってさ。宇宙のことや色んなことを研究しているらしいよ。」
期待の持てそうもない情報である。
確かに表札には「GAKI森羅万象異次元宇宙研究所」とある。しかしその下に「四柱推命天中殺動物占い研究所」の文字も。
「怪しいよ~、絶対マッド・サイエンティストの家だよ~」
「でも、このままでは埒があかないわ。行ってみましょうよ、会長!」
野いちごの決断は速かった。
止める間もなく、呼び鈴を押していた。
ぶぶ~~~。

しばらくすると、ドアがぎ~という音をたてて開いた。
「ごめんください。突然、夜分に失礼します~」
声をかけるがドアの中は無人だった。
ゴトン!
大きな機械音がした。ごとごとごと・・・。
「なんか来るぞ!」ちいらんばだの目がまん丸になった。

現れたのは、ちょっと前に大流行したAIB○という犬型ロボットだった。

「これは・・・!」
まったく予想もしなかった物を見て、二人は声もでなかった。S○NYがこの犬型ロボットを作るまでにまだ何十年もの歳月が必要なはずだ。
そのAIB○は、ジッとカメラアイで二人を見上げると、ゆっくりとしっぽを振った。
「やあ、これはこれは、珍しいことだ。異次元からのお客さんとは。」
二人の旅行者は飛び上がって
「犬が喋った!」と同時に叫んでいた。

するとその後ろから、なんとも怪しい格好をした男が姿を現したのである。
白衣を着た背の高い男。しかも、サングラスをかけ、手には葉巻をくゆらせている。
「驚かせてしまったようだね。ふっふっふ・・・」
めちゃくちゃ余裕の表情であるが、ちいらんばだも、野いちごも「異次元からのお客さん」という一言にぎょっとなった。
「な、何故それを・・・?」
「ふっふっふ、私の名前はGAKI、人呼んでMr.G。
この研究所で様々なことを研究し、また、発明もしているのだよ。君達が次元の壁を突き破ってこの世界にやってきたとき、私の発明した異次元感応システムが異変を察知していた。そこで君達がどこに降りるかを監視していたら、なんとまあ、隣の原っぱに降り立ったので、びっくりしていたのさ。」
「Mr.G!?・・・」
ちいらんばだは絶句した。
「まさか、あのKatty's Cafeのメンバーだった、参謀と呼ばれる男?!」
野いちごも、あまりの驚きに開いた口がふさがらない。

「ああ、彼は平行世界における私の分身の一人だ。」
「????」
「ふっふっふ、そんなに面食らった顔をされると説明が難しいが・・・。」
葉巻の煙をふうっとふきだし、Mr.Gは二人を中に招きいれてくれた。
「まあ、こちらでくつろいでくれ。まだ、夜は長いんでね。」

通された部屋は、黒いソファに白い絨毯、そしてクロームのフロアスタンドという無機的で未来的な部屋だった。とても昭和のインテリアではない。
「すごい・・。」
「かっこいい部屋ですね」
二人は息をのんで、立ち尽くしている。
「どうぞ、腰掛けて。今、お茶でもはこばせます。」
そこへ登場したのは、バリスタの格好をした女性だった。手には薫り高いエスプレッソを持っていた。
「どうぞ、ごゆっくり」
「み、みら~さんじゃない?」
思わず野いちごは、声をかけた。が、その女性は首を傾げると
「いいえ、わたしは博士の助手で、うらんと申します。」
といってにっこり微笑むと博士の隣に腰をおろした。
「うらん?アトムの妹みたいな名前ですねえ」
思わずちいらんばだは、呟いてしまった。
「アトム?なんですか、それ」
うらんは、目を見開いて聞き返した。
「アトム・・・を知らないのですか?」

と、Mr.Gがそこに割ってはいった。
「まあ、話は順番にいたしましょう。
まず、私の自己紹介。私は人類の中でも変った種族なのです。精神感応ができる、いわゆるテレパスです。が、感応できる相手は自分だけ。つまり多次元宇宙に存在するMr.Gとコミュニケーションができるわけです。」
「あ、ああ、コミュニケーションですね・・・」
さっぱり解っていない、と顔に書いてあるちいらんばだの、あやふやな相槌を気にもとめずMr.Gは話を続けた。
「そう、今までに40ほどの平行宇宙のMr.Gが発見されています。彼ら(私のことですが)は、互いにコンタクトを取り合い、宇宙の研究をしているのです。
あ、私のような人間は他にもおりますよ。筒井康隆大先生も、この体質を持っています。」

「40人?皆、あなたなのですか?!」
野いちごは、ますます大きく口を開けている。

「そう、平行世界によって、少しづつ違う私がいるのです。年に一度、Mr.G総会という会議を行っています。私が40人集合するイベントは壮観ですよ、はっはっは!」
もう、ちいらんばだの頭は完全にオーバーヒートしていた。

「Mr.Gが40人・・・。多次元会議・・・!!」

「会長!大丈夫ですか?もう私もなにがなんだか・・・。」

野いちごもさすがに頭がどうにかなりそうだった。