永井するみ 『ダブル』

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内容(「BOOK」データベースより)
若い女性が突然、路上に飛び出し、車に轢かれて死亡した。事故と他殺が疑われたこの事件は、被害者の特異な容貌から別の注目を浴びることになった。興味を持った女性ライターが取材を進めると、同じ地域でまた新たな事件が起こる。真相に辿り着いた彼女が見たものは―。かつてない犯人像と不可思議な動機―追うほどに、女性ライターは事件に魅入られていく。新たなる挑戦の結実、衝撃の長編サスペンス。 

倒叙法ミステリのバリエーションの一つ。
永井するみの長編ミステリとしては小粒な印象だが、やはり面白い。
読みながら作者の意地の悪い視点が快感になり、ストーリーが進み今までの登場人物の印象が、どんどん裏切られていくのが、また、堪らない快感をもたらしてくれる。

見た目が不快に感じるほど醜い若い女
貧相で小柄でキンキン声のネズミのような印象のサラリーマン。
女子アナ志望だった目立ちたがりの女性記者。
浅薄な見方でしか事件を取り上げようとしない偏見男の編集者。
ゲーム、フィギュアのオタクたち。

まあ、なんとも普通に感じの悪い、普通な人たち、いわゆるイケテない登場人物たちが、永井の筆でリアルに描かれる。

そして、この小説の主人公の一人である乃々香の描き方もリアルな妊婦だった。
こういうサイコ女って、ありがちな設定だけどやはり怖いものは怖い。
平凡でちょっと可愛くて頼りない女の子。それをそのまま大きくしたような女性、乃々香。
優しくてエリートの夫にも恵まれ、幸せな家庭生活を営む。母のような暖かい家庭を作るのが理想。
でも、まだ母に甘えたい、自立できてない少女の部分を持っている。
しかし、その無邪気な表情の下には、ぽっかりと口を開けた怖ろしい自我が眠っている。

事件を追いかける女性記者、多恵は、葛西駅周辺で起きた死亡事故の取材をするうちに、奇妙な暗合に気付きはじめる。
様々な事件の関係者への取材によって、真相の周りを探りながら徐々に核心に近づいていく過程は、読み応え充分。サスペンスとは、こういう過程にあるのが正しいのだな、と納得してしまう。
「24」みたいにあと何秒で爆発なんていう派手さはないけれど、じわじわと迫るもどかしい思いは、素晴らしいサスペンスを盛り上げていた。

個人が社会や家庭で演じている役割と、その裏にある本当の顔の落差、怖さが面白い。
現代の都会に生きる人達の、浅い上辺だけの付き合いが、影の部分で変貌を遂げる。

女性しか描けないサイコ小説の傑作でした。