『謎の宇宙海賊~その2~』 時空を越えて~第二弾~

謎の宇宙海賊~その2~


その1はこちら

「どこなの?ここは?」
心細い声で野いちごが呟いた。星座も見たことのないものだったし、きっと時間軸の移動も石器時代から遥かに離れたものであることは明白だ。

「どうしていつもいつも、ちゃんと時間旅行が出来ないのかしら?」
ガックリうな垂れる野いちごに、ちいらんばだは優しく
「でも、ドナルドからは逃げられたようだし、3人とも無傷なんだからよかったじゃないか」
と肩を抱いた。
「会長」
野いちごとちいらんばだ、見つめ合う二人・・・。

「あの~~、悪いんですけどまだ危険が去ったわけじゃないですよ。」
まぁまぁの容赦ない突っ込みであった。

「え?まだ追いかけてくるっていうんですか?」
「はい、ドナルドの本隊は亜空間を拠点にしてますが、部下に追わせることは可能です。
そして、彼の配下には精鋭を揃えた怖ろしい女性がいるのです。
楚々とした外見、時にメイド服に身を固めた「ベラコ・トミナガ」という女は、四天王の一人と言われている優秀な兵士です。彼女が乗っている小型戦闘機「Tibiberuko号」は接近戦を得意とする無敵の機体です。」
「ベラコ・トミナガ・・・」
野いちごとちいらんばだは、記憶を探るように呟いた。

「もしかして・・・!いや、そんなはずはない。」
「何かご存知なんですか?」
まぁまぁが意外そうに、ふたりを見つめている。

「その機体には何か文字とか、スローガンが書いてないですか?」
とちいらんばだ。
「ええ、有名ですよ。黒々と「魑魅魍魎」「妖怪跋扈」「百鬼夜行」という文字が書かれています。」

「会長!」
「野いちご君!」
二人は顔を見合わせて声を上げた。

「きっと、ベルコ・トミナガの子孫だ。」
ちいらんばだは遠い眼をしてその名前を囁いた。
「本楽堂協会の前身、日本本楽ミステリ同盟の副会長ですね。」
野いちごも、その名前をよく知っている。
「副会長という立場なのに腰が低くていつもメイド服を着て、同盟の建物を走り回っていた元気な女性でしたね。」
「そうだ。彼女はミステリに対する愛情がとても強かった。
最後に会ったのは、同盟解散の式典の時だった。はかま姿になった彼女は、これからは一人でミステリの可能性を追求していくと言っていたんだ。
まさか、その子孫が海賊になっていたとは!」
「会長、私も信じられません。でも、戦闘機にかかれたあの言葉は、日頃彼女がとても大切にしていた「ミステリ心」を表したものです。」

「そうだな、とにかく私たちはこの状況から無事に逃げ出す方法を考えなければ・・・。」
ちいらんばだはコンソールのキーボードを操作すると、モニターを赤外線画像に切り替えた。

宇宙空間の一部が徐々に明るい光に変ってきた。
「あそこだ、チビベルコ号が亜空間から飛び出してくるぞ!」

次の瞬間、小型の宇宙戦闘機「チビベルコ号」のオレンジに輝く姿が現れた。
まぁまぁの攻撃が容赦なく襲い掛かる。
しかし、クルリと機を翻すとあっさりと受け流し、いきなりビームを放ってきた。

ガクガクとタマネギが揺れて、まぁまぁのコントローラーが制御不能になった。
「だめだ!一撃で制御不能になったぞ!」
「もっと、強力な武器はないのか?!」

野いちごが再び取り説を調べているが、もう文字も読めないほどの振動が襲っている。
「うわああ、」
2発目のビームの衝撃にちいらんばだの身体が吹っ飛んだ。
背中をしたたかぶっつけて、やっと立ち上がったちいらんばだだったが、
「あれ?静かになってるね」
と、周りを見回している。

奇跡的にちいらんばだの背中がバリヤーを発生させるレバーにぶつかって、タマネギは機体の周りに金色の光バリアを張りめぐらしたのだった。

「あったわ!これが最強の武器みたい!」
やっと野いちごが、目当てのものをみつけたようである。
「ミサイル搭載って書いてあるわ!画面を照準モードに切り替えて、発射ボタンを押せば!」
野いちごの指がせわしなくコンソールを走る。

「え?野いちご君、どこにそんなミサイルなんかあったの?」
ちいらんばだが目を白黒している。
「タマネギの下部にサイロがあったようですよ。
じゃあ、撃ちますよ!」
野いちごの指が発射ボタンを押し込んだ。
「ああ~~!ちょ、ちょっとまって~~~!」

ドゴッ!

「あああああ~~~~!僕の蔵書がああああ!」
なんと宇宙空間に打ち出されたのは、ちいらんばだが溜め込んだ本の数々だった。
ミサイルを捨てて自分のお気に入りの本をしっかりと乗せていたのである。
きらきらとページをひらめかせながら、何十冊という本がチビベルコ号に向けて発射された。

「会長!なんでミサイルの場所に本なんかッ!!」
野いちごとまぁまぁは、驚き呆れて本の行方を見やっているだけ。ちいらんばだは、自分の愛書がちらばる宇宙空間に飛び出していきそうな顔をしていた。

「おお、チビベルコ号から回収キットのバキューム装置が!」
まぁまぁが叫んだ。
ウネウネとチューブが伸びて宇宙に散らばる本が見る見るうちにチビベルコ号の中に吸い込まれていく。

「ぼくの本だぞ~~~!!!」
ちいらんばだが泣きそうになって叫んでも、もう遅かった。
チビベルコ号はクルリと向きを変えると、再び亜空間へと消えていった。

「うわあ、いっぱい読む本ができちゃったあ~~」
という楽しげな独り言を残して・・・。



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「いろいろありがとうございました。あなたたちは命の恩人です。」

23世紀の地球、日本の京都に無事に行き着いたタマネギから、白いタキシードの男が降り立った。

「こちらこそ、まぁまぁさんのお力がなければ、あの時海賊に捕まってました。
ありがとうございました。」

まぁまぁと、二人の時間旅行者はお別れの言葉を交わした。
「また、どこかの亜空間でお会いしたいですね。」

3人は短い間ではあったが、命を賭けた戦いを共にした友情に結ばれていた。

エクストラ・バージンオイルをたっぷりと補給して、ちいらんばだと野いちごは23世紀の地球を後にした。
「野いちご君、やっぱり旧石器時代に行きたいのかい?」
「いいえ、もう、いっつもトラブルがおきるんだから。
どこでもいいです。会長の行きたい時代で。」
ちょっと、ふてくされぎみの野いちごだった。

「じゃあ、昭和30年代にでも行って、アトムのアニメでもリアルタイムで見てみようか?」
にこにこしながら、ちいらんばだが歴史書を手渡した。
「会長・・・・・。」
野いちごも、もう何も言う事はなかった。
「ええ、そうね。会長と一緒なら、きっとどの時代でも楽しいでしょうね」
にっこり笑って、野いちごはスピンを昭和30年代のページに差し込んだ。